第2話 夏希と退魔師の少年・達也との交流
退魔師の達也と一緒に家に帰ると双子の姉の美咲と母の飼っている青ヘビのニョロナちゃんがいた。
「おかえり、夏希。どうしたのその子。すんごい美少年じゃん。」
「美咲姉ちゃんただいま。ニョロナちゃんもただいま。この子は俺の命の恩人の達也くん。」
「命の恩人?何があったのかわからないけどあんまり危ないことはやめときなさいよ?」
「いやー、前に母さんに教えてもらった欠片の獣に絡まれちゃってさ、助けてくれた退魔師の達也くんにお礼にご飯をご馳走しようかなということで連れてきた。
念のためもう一度名乗っておくと俺は竜ヶ崎 夏希。
こっちが俺の双子の姉の美咲姉ちゃん。
姉ちゃんももう夕食にする?達也君はどうぞ上がって」
「美咲さん、富川 達也(とみかわ たつや)です。よろしくお願いします。お邪魔します。えっと、ニョロナさんもよろしくお願いします。」
「達也くんよろしくね。
夏希、母さんから妖魔に会ったら逃げなさいっていわれてるでしょ?まったくもう。
……アタシはいつもくらいの時間に食べるから後でお願いね。」
夏希は達也をリビングのテーブルに案内すると、ついて来ていた青ヘビのニョロナちゃんにも生卵をあげる。
さらに冷凍庫から衣を付けた状態で保管していたトンカツを取り出し、油を用意してコンロに火をつけ、さらにヤカンでお湯を沸かしていく。
ニョロナちゃんは卵を丸呑みすると、スーッとリビングから出て行った。
最初はびっくりしていた達也も頭の良いヘビだなーと感心した。
「達也君、お腹空いていると思うけど、少し待ってて。トンカツ揚げちゃうからさ。2枚でいい?」
「ありがとうございます。わぁ、そんなに大きなトンカツを2枚もいただいていいんですか!」
さきほど妖魔を退治した退魔師と同一人物と思えないくらいに喜ぶ達也を微笑ましく思いながら手早く温まった油にトンカツを投入していく夏希。
揚げている間に電子レンジにパックのご飯を入れ冷蔵庫からソースを取り出し、更にキャベツを取り出して洗って千切りにしていく。
別の皿にトマトとレタスを切って盛り付け、ドレッシングをかけて完成する。
「お待たせ。悪いけどお味噌汁はインスタントだしご飯もレンジでチンしただけのものだけどどうぞ召し上がれ。あと切っただけになるけどよかったらサラダもどうぞ。」
「いただきます。」
達也は手を合わせて料理に箸を伸ばしていく。サクッと揚がったトンカツを頬張りパックご飯を掻き込み美味しそうに食べていく。
達也が食べ始めたのを見て夏希もたべていく。
「ご馳走さまでした、とてもおいしかったです。料理はいつも夏希さんが作っているんですか?」
「そうだよ。母さんは仕事で遅くなることが多くて父さんは単身赴任。姉ちゃんは作れはするんだけど、結構散らかして片付けに時間がかかるからあんまり作らなくてさ、消去法で俺が作ることが多くなっちゃって。達也君のところはどうなの?さっきコンビニ弁当を買うとか言ってたけど、お母さんが忙しい人なのかな?」
「僕は修行のため一人暮らしをしているんです。両親は隣の県に住んでいて、しばらく会えていません。」
「達也くんって俺より年下だよね、一人暮らしは大変じゃないか?もしよかったら今後も夕食をご馳走させてもらうよ。」
達也はさすがに断ろうと思った。しかしさっき食べた温かいご飯を思い出し、断るための言葉が出なくなる。
達也は誰かに優しくしてもらったのは初めてだった。富川の一族に生まれた自分は厳しい修行だけの人生だったことを思い出す。
夏希を見た。優しい笑顔で見つめてくれている。
「夏希さん、よろしくお願いします。」
断ろうと思っていたのに出てきたのは反対の言葉だった。
夏希を助けられたのはた偶然なので甘えてしまうのは申し訳ないという気持ちはまだあったが、
優しくしてくれる人がいる事が嬉しくて胸の奥が暖かかった。自然と笑顔になる。
「ご馳走さまでした。学校の宿題があるので今日は帰ります。」
「退魔師も宿題とかやらないといけないのは大変だなぁ。達也くんは家近くなんだっけ?少し暗くなってきたし送っていくよ。」
2人は並んで歩き出した。達也が一般の学校に通っている事や、年齢は夏希より3歳若い10歳である事などを話した。
「あっ、あそこが僕の住んでいるアパートです」
10分ほど歩いて達也が指差した建物は二階建てのアパートだった。綺麗に手入れされてはいるが、10歳の子供が一人暮らしするのに適しているとは思えなかった。
「えっと、ここで一人暮らししてるのか。かなり大変そうだな・・」
「慣れたら意外と大丈夫ですよ。今日はありがとうございました。おやすみなさい。」
ペコリと頭を下げた達也がこちらを見つめてくる。夏希が帰るまで見送ってくれるようだ。
「いや、俺は達也くんがいなかったら生きていない可能性もあったし、こちらこそありがとう。」
達也がまだ玄関前で見送るつもりのようなので、達也がきちんと一人暮らしできているのか気になったが夏希は帰るしかなかった。
「じゃあ帰る。達也くんまたね。」
夏希は達也に挨拶をすると帰路についた。
(母さんなら達也くんの家の事、何かわかるだろうか。俺に出来る範囲で力になってあげたいな。)
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