第2章 藤の花
八月一日。私は待ち合わせの場所に着いた。図書館は結構こじんまりとしている。
「お待たせー!」
「あ!桜田さん!早速図書館入ろう!」
そう言って私たちは入館した。
「そういえば、夢香でいいよ!私の呼び方!ゆめかね!」
わかったと頷き、名前で人を呼ぶことが今まで無かった私は初めて友達が出来たのかのように胸を弾ませていた。
「そうそう、遥ちゃんに紹介したい本があってね」
自分の事を名前で呼ばれただけなのに、なぜだろう。凄く嬉しい。
「事故に遭った女の子が、昏睡状態の中生死をさまよい続けながら色々な夢を見るお話なんだ。けどね、この本物語が途切れているんだ。」
物語が途中で終わっているということ?なぜそんな本を、だれが何のために置いたのだろう。いやあでも、私が同じように昏睡状態だったら一刻も早く夢から覚めたいと思う。
なんとも可哀想な、そして物語の続きは何なのだろうと思いつつも私は図書館にある他の本に目を通した。
斜陽がそこまで大きくない図書館の机を照らす。光で照らされているところはわかりやすく埃が舞っている。
そこで私は一瞬身体中に電気が走った感覚がした。
遠山くんがいたのだ。
夢香に聞いた。
「ねえ、あれ遠山くんだよね?」
「え?ああ、よくここにいるよ。噂によると、本を読むのが好きだとか。」
意外すぎる。クラスの男子と大勢でつるむような人が読書をするなんて。人は見た目で判断するものじゃないなあと思いながらも、以前遠山くんに言われたことを思い出し頭の中で前言撤回する。
よく見ると、本を読んでいる彼の横顔はとても綺麗だ。目が惹き付けられるほど。思わず目を離さずジーッと見ていると、こっちに気付いた。いや気付かれてしまった。
「...何見てんの?」
「いや、ここにいるの意外だなーって思って。てか前私の事ボロクソに言ってたけどあれは何だったの?」
「いや、他人の前で取り繕ってるやつが嫌いだから言っただけ」
うざい。聞かなければよかった。普通に知らないフリをすればよかった。
その時、
「遥〜!こっちこっち〜!」
夢香に呼ばれ、遠山くんを睨みつけてから駆け寄った。
「さっきのお話、昏睡状態になった女の子が記憶を失っちゃうんだけど、色んな夢を見ていくうちにどんどん記憶が戻っていくんだって!でもこのお話の続きが無くてさ〜読みたかったのに残念だよ〜もう!」
そう不満げに言って、夢香は本を棚に戻した。
結局閉館時間まで私たちは、一応言っておくと遠山くんも図書館にいた。
帰り道、途中で夢香と道が分かれ、街路樹を通っていると、二十メートルくらい前に遠山くんが歩いているのが見えた。
私はボロクソに言われた分の不満を言ってやろう!と近づいた時、遠山くんがこちらを振り向いた。
「まだあんたいたんだ。」
「あのね、私ここ帰り道だし毎日通ってるから。あとその言い方きついからやめてくれないかな?」
すると、
「あ、珍しい。藤の花が咲いてる。」
街路樹の通りに、藤の花が咲いていたのだ。基本三年に一度しか咲かないため、たしかに咲いているところを見れるのは珍しい。綺麗だなーと関心しながら見ていると、
「ほら、自然に笑えてるよ」
あれ、そういえば私今少し微笑んでた?
「もっと自分に素直になれたらいいのにね」
そう言葉を残し、彼は帰っていった。
私は立ち尽くしたまま、しばらくぼんやりと空を見つめていた。
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