夢の先に
星乃雫
第1章 見知らぬクラスメイト
いつからだろう。心の底から笑えなくなったのは。まるで真っ暗な闇の中に閉じ込められているような、そんな日々がずっと続いている。
いっそのことこの世から消えてなくなりたい。そう何度も思ったが、痛い思いはしたくないので今日も仕方なく生きている。
「遥ー?起きてるの?早くご飯食べて学校に行きなさい」
聞き飽きた声を耳にして、私は朝ごはんを食べたあと重い足取りで学校に行く。
学校に着くと、私はそこそこ目立つグループに入り、会話に混じる。いや、混じるというよりかは、そこにいるだけの存在だ。私がいてもいなくても気付かない、まるで空気のような存在。女子のかん高い笑い声、サッカー部の騒がしい笑い声、全てが私にとって耳障りだ。誰かの会話になんとなく頷き、わかる〜、それなー、と言うだけ。
今日も私はこうして作り笑いを繰り返す。
夏休み目前のため、クラスの雰囲気も和み皆テンションが上がっている。花火大会の日程や、いつ空いてるー?俺その日バイト入ってるわー
など、色々な声が飛び交う中、私は一人の男子に視線を向けた。
あれ、あんな人いたっけ?
見覚えの無い顔に困惑する。友達と仲良さそうに話しているが、誰なのだろう。そこで私はクラスであまり目立たないが多少話したことのある隣の席の桜田さんに声をかけた。
「ねね、あんな人いたっけ?転校生?」
「えぇ!今更!?遠山くんだよ?ずっと前からいるよ」
なぜ私は彼の存在を知らなかったのだろう。
「それよりさ、夏休み一緒に図書館行かない?山口さん本好きでしょ?」
...ありえない。私が誰かに誘われるなんて。一応同じグループの子にも誘われたことは無かったのに。初めてのことに心を弾ませるもなぜ急に誘ってきたのだろうと疑問を抱きながら図書館に行く約束を交わした。
放課後。私は密かな楽しみがある。それは、皆が帰ったあとの教室に残り窓からの風景を眺めることだ。この日は初めて人から誘われたという事もあり、いつもよりは疲労が軽かったものの、やはり作り笑いをして頬が疲れたので外を眺めため息をついた。その時、ガラっとドアが開く音がした。ドアの方を見ると、そこには遠山くんがいた。
「何してんの?」
そう声をかけられ、驚きのあまりすぐには言葉が出てこなかった。
「えーっとー...」
「いつも皆の前で笑顔作ってるよね、つまんないやつ」
え?なんでそんなこと知ってんの?てかいきなり何?私は作り笑いって思われないように必死に頑張ってきたのに。
「そういうの、やめた方がいいよ。見てて嘔吐くくらい気持ち悪い。うざい。」
そう言って無言のまま出て行った。
うざい。うざい。そりゃ友達が多い人に私の気持ちはわからないでしょうね。なんとか感情が取り乱される前に抑えることは出来たけど。てか私が作り笑いしてるって言うほど私の事見てんの?せっかく図書館の約束で少しテンション上がってたのに。全部台無しだ。心の中でぶつぶつと言っていた。
そして今日もいつもと変わらない、いやいつもより重たい足取りでまた帰路に着く。
翌日。終業式が終わり、クラスが一気に夏休みムードに入った。
「ねね山口さん、八月一日、十四時に現地集合でいいかな?」
「うんわかった!楽しみにしてる!」
「私もだよー!山口さんと遊ぶの初めてだから少し緊張するけど、すっごい楽しみ!」
「ね、私も実は緊張してる笑じゃあ、またね!」
「うん!」
会話を終え、私は軽い足取りで家に帰る。
この夏休みが私の人生を変えることを知らないまま。
蝉の鳴き声が響く街路樹を通って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます