第27話 次女はキュートな魔法少女②


「こちらス〇ーク。対象の尾行を開始する!」


 僕はあるミッションを達成するために、ダンボール箱を被って街に繰り出していた。

 冷蔵庫を入れるダンボール箱は1人の人間を隠すには十分なサイズがあり、すっぽりと身体を覆いつくすことができている。

 ダンボール箱がズリズリと地面を擦って移動しているのは、さぞや奇妙な光景だろう。

 しかし、それを見咎める者はいない。『忍び歩き』のスキルを使用したことで、周りは僕に気づいてもいなかった。


「……うん、だったらダンボール箱いらないんじゃね……って気がするけど、まあ、気分だもんな。様式美ってやつだよ」


 などと誰にともなく言い訳しつつ、僕は箱にあけた穴から外を窺った。

 ダンボールごしに見る外の風景。その中心には1人の女性の姿があった。

 日下部飛鳥――通称・飛鳥姉。日下部家の次女。僕にとっては血がつながらない2番目のお姉ちゃんだ。


 飛鳥姉は駅前にある広場で誰かと待ち合わせをしている最中。いつになくオシャレさんな服装をしており、スマホで時間を確認している。僕はそんな彼女の尾行をしている真っ最中である。


「……あの飛鳥姉がわざわざオシャレをして出かけるなんて尋常の沙汰じゃない。絶対に何かがあるはず」


 飛鳥姉には恋人はいない。

 いないはず。たぶん、絶対にいないと思う。いないと信じている。


「だが……勘違いしないでくれ。僕は決して、男とデートに行っているかもしれない飛鳥姉が気になって尾行しているわけじゃない。変な嫉妬心から飛鳥姉を追いかけているわけじゃないんだ!」


 ダンボール箱に隠れたまま、僕は誰にともなく言い訳の言葉を口にした。


 そう、別に僕は飛鳥姉がオシャレをして出かけたのを見て、「まさか飛鳥姉がデートに……!?」と嫉妬に駆られて追いかけてきたわけではない。本当に。マジで。


 僕は少し前に日下部四姉妹の2人の女性の秘密に触れた。

 三女である風夏は超能力者であり、おかしな組織同士の抗争に巻き込まれていた。

 長女である華音姉さんは陰陽師であり、人知れずに悪霊やら妖魔やらと戦いを繰り広げている。


 そんな姉妹の秘密を知ったことで、ひょっとしたら他の2人にも何か秘密があるのではないかという考えに至ったのである。


 次女の飛鳥姉、四女の美月ちゃんの動向を以前から注意していたところ……今日になって偶然にも飛鳥姉が休日にオシャレをして出かけたのを見て、ダンボール箱を被って尾行をすることにしたのである。


「絶対に何かがあるに違いない……飛鳥姉が危ないことに巻き込まれているのなら、何を置いてでも助けなくっちゃ」


 そうつぶやいて、僕はダンボール箱の穴から飛鳥姉を注視する。


 別に家族の秘密を暴きたいわけじゃない。秘密があっても一緒にいられるのが家族だというのが僕の持論である。

 だが……危険なことに遭っているというのであれば話は別である。家族の一員として絶対に助けなくてはいけない。


 そう思って見守る僕であったが……そんな僕の目にとんでもない光景が飛び込んできた。


「飛鳥ちゃん、お待たせ―!」


 広場にある奇妙なオブジェの前に立っていた飛鳥姉の前に、同年代くらいの男性が現れたのだ。

 現れたのは涼しげな顔立ちのイケメン男子。いかにも「女慣れしてますよ」といった風体のイケメン野郎である。


「…………!?」


 思いもよらぬ事態。あるいは、意図的に意識を背けようとしていた事態を受けて、僕はショックのあまり目を大きく見開いたのである。

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