第13話 三女は可愛いサイキッカー⑤
「む……」
何だコイツは。
とんでもなく粘着質で気持ちが悪いというか、ナルシストが全面的に出ている嫌なタイプのイケメンだ。
風夏を見る目はやたらと陰湿でいやらしく、とてもではないが中学生の少女に向けるようなものではない。
「まさか君の方から来てくれるとは嬉しいよ! ボクの可愛い花嫁。運命に選ばれたエンジェルよ!」
「…………」
気取ったように髪をかき上げる粘着質なイケメン――天童時彦とやらを、風夏が厳しい目線で睨みつける。
歓迎するように両手を広げて満面の笑みを浮かべる天童に対して、風夏の顔は軽蔑しきった表情であり、とても友好的な関係であるとは思えない。
可愛い妹分がおかしな男と親しくなっているのでないことは安心だが……ともあれ、この男は何者なのだろうか?
「……ようやく追い詰めたわよ。仲間の仇、ミヤコ先輩を殺した罪をここで裁いてあげるわ!」
「ふふっ……そんなに情熱的な目を向けないでくれたまえ。興奮して堪らなくなってしまうじゃないか!」
「……本当に気持ち悪い。どうしてアナタみたいな人に先輩が殺されなくちゃいけなかったのよ!?」
「先輩……? あの忌々しい女のことを言っているのであれば、あれは当然の報いだよ。ボクと君の仲を阻んだ、新世界の神であるこのボクに逆らったのだから死をもって報いるべきじゃないか」
うわー……『新世界の神』とか言い出したよ。
中二病だ。中学生女子である少女を中二病のキモイケメンが口説いている。
風夏が置かれている状況を調べるために姿を消したまま様子を窺っているが……もう姿を現して、コイツをぶっ飛ばしてもいいんじゃないかな?
可愛い妹分がこんなキショい男と同じ空間にいることが、もう耐えられなくなってきたのだが。
「天童時彦。もう逃げ場はないぞ。大人しく投降しろ」
トレンチコートの中年男が風夏を庇うように前に出る。
どうやら、この男も天童の気取った口ぶりに耐えられなくなったのだろう。ゴキブリでも見るような表情を顔に浮かべて、懐から取り出した拳銃を天童に向けている。
「投降するのであれば命までは奪わん。無駄な抵抗はやめろ」
「……鬱陶しいなあ。君もボクとイヴの間に割って入るのかい?」
天童が瞳を冷たく細めて、またしても意味もなく前髪をフワッとさせる。
「どうやら、イヴと愛を語り合う前に始末しなくてはいけない人間がいるようだね。構わないさ……愛に障害はつきもの。邪魔者を振り払うほどに愛は激しく燃え上がるのだから!」
「…………」
トレンチコートが無言で引き金を引いた。
現代日本のどこで手に入れたのかは知らないが……それは本物の拳銃だったらしい。
パン、パン、パン――と破裂音が立て続けに響き、数発の鉛の弾丸が天童に向けて放たれる。
「フッ……無粋なことだ。美しさの欠片もない」
「…………!」
しかし、弾丸が天童に命中することはなかった。
天童の前方に立ちふさがった人型の何かが弾丸を受け止めたのである。
「チッ、デク人形が……!」
トレンチコートが舌打ちをした。
それはシルエットこそ人間と同じ形をしていたが、銀色に光を反射する材質は金属製に見える。目も鼻もない卵のような顔。流麗な手足はまるで人間型のロボットのようだった。
しかし、ロボットであるならばあるはずの関節部分のつなぎ目などが存在しない。粘土細工のように一塊の素材で構築されている。
「…………?」
生命力を感じさせない人型の正体も気になるが、それ以上にわからないのは、それが何処から現れたかわからないこと。
この銀の人型は何もない空間から突如として現れた。召喚や転移などの気配も感じなかったのだ。
「殺せ、シルバーナイト」
『――――――――――』
天童の命令に従い、銀色の『人型』――シルバーナイトが動き出す。
シルバーナイトの腕部分が鋭い刃物のように変形して、トレンチコートに向けて振り下ろされる。
「坂城さん、下がってください!」
振り下ろされた刃を迎え撃ったのはスーツの女性である。
キャリアウーマン風の彼女が手をかざすと、そこに半透明の壁のようなものが出現して斬撃を受け止めた。
どうやら、キャリアウーマンさんはバリアーや結界のようなものを使う特殊能力者のようだ。
「小賢しい。無駄な抵抗だね」
しかし、再びシルバーナイトの腕が変形する。
刃物からドリルのような形状に変化した腕が、高速回転しながらキャリアウーマンさんのバリアーに突き刺さった。
「くっ……!」
高速回転するドリルによって徐々にバリアーが削られていき……とうとうそれが砕け散った。ドリルがキャリアウーマンさんの身体を貫くべく、シルバーナイトの腕から伸びてくる。
「…………!」
そんな危機一髪な状況を見て、僕もさすがに動きかけるが……それよりも先にキャリアウーマンさんを救った人間がいた。
「消えなさい」
それは僕の可愛い妹分――日下部風夏である。
風夏がシルバーナイトに向けて右手をかざすと、まるで最初から存在しなかったかのように銀色の人形が消滅したのだ。
「ッ……!」
これには僕も息を呑んだ。
あの正体不明のシルバーナイトを破壊するだけならば、勇者である僕にとっては容易いこと。バラバラに切り刻むでも、粉々に吹き飛ばすでも……いくらでもやりようがある。
だが……風夏がどうやってシルバーナイトを消し去ったのか全くわからない。残骸の欠片も残すことなく消滅させるなんて、勇者にも魔王にもできないことだ。
「素晴らしい! 素晴らしいよ!」
そんな風夏の力を見て、天童が両手を広げて喝采した。
「本当に素晴らしい能力だ! この世のあらゆるものを跡形もなく消滅させる超能力――『
天童は血走った眼で風夏を見つめて、ニチャリと喜色の悪い笑みを口元に浮かべる。
「その力があれば、この世の全てを根本から造りかえることができる。ボクの『
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