[1-3]そりゃ過労だろうなあ
どうなることかと思ったけど、カミルに食事をさせるという仕事は
目の下の
政務やそれに関係する業務は今のところゼレスが一手に引き受けている。もちろんカミルも政務に携わってはいるけれど、あの金狼は視察とか城内の警備体制の管理まで一人で抱え込んでいるんだよな。体力のない主君の代わりに、フットワークが軽いゼレスが動いて回っているってわけだ。
ゼレスは忠義のかたまりのような狼で、どこまでも主君優先で動く。だからって仕事まで全部抱え込まなくていいと思うんだけど、彼は
まったく、図体ばっかりでかいくせに世話のかかる狼だ。
彼を攻略するためには助っ人が必要だ。
ゼレス並に体格がよくて、めちゃくちゃ勘が鋭く冴え渡るやつが。
そこ、僕のことを小さいとか言うな! まだ成長期なんだよ。たぶん。
「目の下のクマに疲れた顔、ノアに当たるくらいイラついた態度、か。そりゃ過労だろうなあ」
今朝起こった一連の騒動を説明すると、すぐ下の弟ヴェルははっきりとそう断言した。
朝食を終えてカミルを王の寝室まで付き添ったあと、僕は弟の部屋を訪れていた。助っ人というのが実はヴェルのことなのだ。
ヴェル——本名をオリヴェルという彼は腹違いの弟で、
蜂蜜色の長い髪を赤いリボンで結び、切れ長の翡翠色の瞳をもつ色男。
そんな身内の
以前、僕たち兄弟は実の父によってスラム街に捨てられた。バラバラになって互いの居場所さえつかめず、土地勘もない最悪とも言える状況の中、
当時は僕だって必死に弟や妹たちを探したけど見つけられなくて。どうやって妹の居所をつかんだのか不思議に思い尋ねると、返ってきたのはたった一言。
「勘だ」
最初はあきれもしたが、ヴェルの勘は侮れないと実感した。百発百中というくらいに、ことごとく弟の勘は当たるのだ。
慣れないスラムでの生活の中、危険な局面は何度もあった。けれど、ヴェルの勘に従って行動すると、大抵の場合、最悪の結果は回避できたのだ。
三年前に僕が
いくら僕たちを子供扱いしようとも、ゼレスがヴェルの勘から逃れられるはずがない。それにヴェルはゼレスと一緒にいることの方が多いから、僕以上に彼のことはわかっているだろう。
「実はさ、ゼレスの様子が前からおかしいとは思ってたんだよ」
形の整った眉を寄せ、ヴェルはそう切り出した。
「そうなの?」
「ああ。母さんが全然ゼレスに会えてないってこの間相談してきたんだよな」
「ああ、なるほどね」
ヴェルの母親ローズは同じ城に住む元王族の一人だ。政変の時、前国王の
そんな彼女が実はゼレスとは恋仲だったりするからびっくりだ。あいつ、いつの間にヴェルの母親を口説いたんだろ。
「勝ち気な性格の母さんのことだから、そのうちゼレスの部屋にでも乗り込みに行くんだろうけど、さ。でも目のクマ見たら絶対心配するよなあ。親父が生きてた頃は苦労の連続だったんだし、母さんにはあんま心労かけたくねえんだけど」
「そうだよねぇ。ゼレスって、特に同じ狼の僕には兄貴風吹かすところあるしね。こっちが問い詰めたって素直に実情を話さないと思うんだ。それにあいつにとって僕やヴェルってカミルの養子、つまりは主君の子供っていう感覚だろ? 絶対話をはぐらかされるよ」
だからこそ、ヴェルには手伝ってもらいたいのだけど。
「話もはぐらかされんじゃ打つ手ねえじゃん。どうするつもりなんだ、ノア」
少し険しい顔をしてヴェルが尋ねてきた。僕だけでなく弟も今回のことは深刻な問題だと受け止めているらしい。だとすると、最初に感じた僕の勘もあながち間違っていなかったということかな。
解決のためにすぐに行動する必要がある。きっと、僕とヴェルのタッグならあの金狼を吐かせることは可能だ。
僕は背が高い弟の顔を見あげ、不敵に微笑んだ。
「そりゃあもちろん、実力行使さ」
「え、それってオレとノアの二人でゼレスの仕事を取り上げるってことか?」
「他に何があるんだよ?」
「力づくかよ! ノアってそういうとこはほんと狼だよなあ」
どうしてヴェルはため息なんかついているんだろう。
まあいいや。とにもかくにも次にやるべき
僕とヴェルで政務室に乗り込み、仕事中毒化している金狼から仕事を奪い取ってやるのだ。
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