夢三夜 早桜

 遠くでだれかの声がする。

 まどろみの底から、意識はけれど眠りの湖へと落ちていく。


 「……風織姫」

 拳四つくらいの近さで、驚愕に見開らかれた瞳に自分が映っているのを見た。

 目線の位置が高くなっていることに気づく。ほぼ同じか、少し上か。

「なに、それ?」

 もしかして、自分のことかと早桜は首を傾げた。

「私の名前はさおよ。早い桜と書いて早桜。」

 夢の登場人物に名乗るなんて、我ながら細かい設定だ。

「……呼んでいいのか?」

 目を見開いた少年が、真剣な眼差しで聞いてくる。

 ――少年? そういえば、彼の名が分からない。

「あなたは?」

 顔や首に浮かぶ刺青が、前とは違う模様のような気がする。線が減って、色も薄くなったような……?

「俺は……空里くうり。風斗の『かむり』を受ける者。」

 早桜は、彼が両の腕に抱えているものに気づいた。

「――あなたの子?」

 年齢的に無理ではないが、まず違うだろうと推して、白い産着に包まれた生後まもない赤子の顔を覗きこんだ後、上目遣いで言ってみる。

「甥だ。弌夏姉上の初子、闇衛の御館の初孫。」

 ふうん、と頷いた瞬間、ふっ、と少年の顔が揺らぐ。

 ――醒める。

「元気な子になるといい。」

 赤子の頬に伸ばした掌が届いたかどうかは知らない。

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