間章

 ひたかみという大地がある。

 水と風を護りとする、いのち豊かな大地。

 異国――それは大和という――から、偉そうな顔で訪れる輩は別の名で呼ぶが、彼らが執拗にそれを呼ぼうが、大地は彼らに名づけられたりはしない。

 ひたかみは、ひたかみだ。大地をそう呼ぶ、そのクニの民がいる限り、喪われることはないのだ。

 クニがクニでなくなるのは、戦に負けて、王が討たれた時ではない。それはクニのことわりを、クニ人が忘れたときだ。クニのことわりとは、即ち「誇り」だから。

 かつて――。

 この南北に細長い≪秋津島≫には、そんなたくさんのクニがあったのだ。

 国津の神を戴いた、それぞれのことわりをもったクニが。

 けれど、南に興った「大和」は、たくさんのクニを「大和」のクニのことわりが呑み、いまはもう日高見だけが、ひたかみのクニのことわりで生きている。


 ----生きようとして、いた。

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