Day3 「君の目の前で死にたいな」

 雪が降っている。恐らく、ニュースでは八王子駅周辺の様子を映しているだろう。

 昼休みまでは雨だったのだが、気が付くと雪に変わっていた。つまり予報通りだ。特に理由もなく御樹は疑っていたものの、1月にもなればそりゃあ雪くらいパラパラ降る。

 かと言って、所詮は関東の積雪だ。凄まじい吹雪ということもないのだから、雨だと思って帰ればいい。一昨日の寒さが身に沁みたこともあり、御樹はコートだって着ている。

 放送委員の集まりを終え、図書室が開くのを待ってから返却と貸出を済ませ、ぐだぐだ1人で歩いて玄関までやってきて、そうして、おや、と思う。

 ベージュのロングコートを着た天音――こちらは図書委員。御樹だってジャンケンに勝っていたら図書委員だ――が、出入り口の傍に突っ立って小説を読んでいた。リュックは足元に置いている。誰かを待っているのだろう。

 そしてそれは、恐らく自分ではないと彼は判断。靴を履き、玄関脇の傘立てから真っ黒の傘を取り上げると、そのまま校舎の外に踏み出そうとする。

「御樹君」

 後ろから腕を掴まれる。ギョッとして振り向くと、妙に爽やかな表情の天音。

「無視した? 今」

「え、僕が? 何?」

「無視したよね。結構待ってたんだけどな」

「えぇ……?」と表情を歪める。そんなことは傍から見て分かるものではない。

 片手に持っていた小説にしおり紐を挟み、リュックにしまいながら「全然来ないからさぁ」と天音は続ける。

「委員会は終わったろうに、何をしてたの?」

「ちょっと、図書室に。というか、待ち合わせなんてしてたっけ」

「まさか。私が勝手に待っていただけ。一緒に帰りたくてさ」

「あー、傘を忘れたのか」

「実に話が早いね。ありがたい」

 とすると、相合傘。「そうさね」と御樹は頭をかく。

 彼らは何度か一緒に下校したことがあるが、その帰路は中途で大きく分かれるため、一緒に歩む距離はさしたるものではない。小学校も別々だったのだから、方面が違うのも当然のことではある。したがって、ちょっと相合傘したところで特に意味はない。とすると、

「傘なら貸すよ。置き傘があるから」

「へぇ、そうかい。それなら、そちらを貸してもらいたいな。今持ってる?」

「いや、教室。まぁこっち貸すから、先に帰ってて」

 ポーカーフェイスで傘を突き出すと、若干の間を置いてから「ありがと」と天音は受け取る。何か納得のいっていない調子だ。

「じゃ、さようなら」

 返事を聞くこともなく踵を返し、再び上履きに履き替える。「御樹君」と天音。

「君が戻って来るまで、ここで待ってるからね」

「どうして? もう一緒に帰る理由もないだろ」

「なんとなく、かな」

 ちらと表情を窺うと、いつものゆったりとした微笑だ。御樹は「ふぅん」と素っ気なく返事し、2、3歩と進んで立ち止まると、次いで「分かった。降参」

 天音の笑みが意地の悪いそれに変わった。またまた靴を履き直す御樹を見て「嫌だなぁ」と甘ったるい声で言う。

「ブラフだよ。本当にないとはよもや思わなかったな」

「思わなかったらカマかけないんだよ」

 御樹が戻って来ると、天音が傘を差し出した。彼は肩を落とし、致し方なくそれを受け取る。

「じゃあ、相合傘でお願いね」

「……やっぱりこうなるか」

 天音が自分の利を優先していたならば、フェイクに気付いてもとっとと帰っていただろう。が、相合傘など始めればどうせ彼女の家まで向かう羽目になるのだから、帰るまでに余計な時間もかかる。生じる感情を抜きにすれば、いずれにせよ彼は馬鹿を見るわけだ。

「まぁ、途中まででいいからさ」

 などと天音は言っているが、御樹のクソみたいなプライドとしては許容出来ない。それは彼女がどう言おうが絶対に確定事項だから、傘を気前よく貸して自分は雪の中を駆け抜けるのが、一番清々しくて楽な道だったのだ。

「後味悪い。家まで送るよ」

「そこまでしなくてもいいのに」

「けれど……いや、後味悪いだろ」

 他に語るべき理屈もなく、下らない感想でゴリ押しする。相互扶助やレディーファーストといった普遍的で漠然とした話を出さないのなら、一先ずそうする他にない。

「つくづく優しいね。貧乏くじには気をつけた方がいいよ」

「君が言える立場か? いや、もういいや。早く行こう」

 言いつつ、外に出て傘を差した。リュックを背負った天音も隣に並ぶが、僅かな間がある。密着という程ではない。

 校門を抜け、御樹は一先ず周囲を確認。「クラスメイトとかいないよな」なんてことを今更心配している。時間帯的には半端なところだから、一先ず制服姿は見当たらないが。

 学校の周りには然程広い道路もなく、住宅と路地が続くばかりで、降雪の中に出歩く人も少ない。つまりそもそも人気もない。何となしにしんみりしている。

「別に見られても平気だと思うよ。私達を揶揄しても面白くない」

「あぁ、それもそうか」

 こんな彼らだが、中々どうして、クラスから浮いていない。一応はお互い以外の友人、と表すにはいささか親交の浅い知り合いがいるし、名前をさりげなく忘れられる辱めも滅多に受けないし、なんと言っても、ペアを作る時に最後まで余ったことがない。なんだかんだで組む相手が同性にいる。

 とは言え所謂は陰キャであり、クラスの中心的人物達は大して目もくれず、また、同じ陰キャのイジりも程度が知れている。リア充死ねだのなんだのと言っても、それは自分達がそういうキャラだとそこはかとなく思っているからであって、強い憎悪を抱いているということもない。挫折さえ知らぬ子供の戯言。

 よって、御樹の懸念はクリアされるのだが、その次に気が付いたのは「なんかこれ濡れっ……凄く濡れるな。肩と言わず右半身いってる」

「あ、やっぱりそうだよね? 私の方に寄せ過ぎなんじゃないかな」

「最低限のつもりなんだけど」

「そう? ちょっと私が持とうか」

「いや、持つのは身長の高い側だ。そういうものだろ」

「そんなに身長違うかな」

「それはもう明白に」

 彼の言う通り、その差は歴然としている。御樹が160cmと少々で、天音が150。並んでみると目に見えて違うが、別に御樹の身長が高いわけではない。

 天音本人の言葉によれば、成長は既に止まっているらしい。そういうわけで、御樹は身長が165か6辺りで落ち着かないものかと、愚にもつかない考えを抱いたことがある。カップルの理想的な身長差が15cm、などというちゃらんぽらんな話を聞いたからだ。

「んー、もうちょっと御樹君の方寄せてみて」

「これくらい?」

「もうちょっと」

「こうする、と、君も濡れてるな」

「いや、全然」

「悪いけど雪だから際立って見える。濡れてるよ」

 言いつつ、調整前の位置に戻す。「あー」と天音が腑抜けた声を出した。

 御樹は中学入学前に傘を買い直している。「マジでデカいヤツ。マジでデカいヤツ買おうよ」と両親に提言していた割に変哲のないものを買うことになったが、大人用ではある。即ちサイズは十分の筈だから、それで足りないとなると、仕方がない。

「駄目だな。諦めよう」

 さっぱり言うが、天音は「んー」と小首を傾げている。御樹の方に1歩歩み寄り、しかしそれと同時に、彼は白線の外に出た。

「御樹君、危ないよ」

「君が近寄るからだ。内側に寄ってくれないか」

「いや、多分御樹君が過度に遠のいてるだけ。言わない方がいいかと思ったんだけど」

「ん?」と御樹。わざわざ指摘されなくとも、距離を置いていることは確かだ。後はその状態でどうするか、というのが彼の考えだった。

 最初から天音は少々の空間を確保していたが、それでも不足。1歩2歩と離れてようやく安心したものの、それではやはり雪に降られる。流石に愉快でなく、努力してみたが無駄だった。そういう話だ。

「木元さんだって、別にくっつきたくないだろ?」

「嫌ではないよ。君が必要以上に濡れる方が気に入らない」

「そういうことなら、まぁ努力するけど」

 僅かに接近し、天音の側からも近付き、そこで落ち着いた。「これでも濡れるな」と御樹。

「どうやったって同じじゃないか?」

「それは無理があるね。腕を組んでみれば分かる」

「嫌だ」

「冷たいな。折角の機会なのに」

 天音もそうは言うが、無理矢理に密着してくることもない。発言こそやや放埓ではあるものの、身体的な接触にまで発展することは少ない。それに関しては御樹も安心している。

 触られるとドキドキするから、というのではない。触られるのが嫌いだから、というのでもない。単に落ち着かないから、という極々当たり前のこと。相手が誰であろうと同じだ。

 僅かな距離を保ったまま歩き続け「いやはや、はてさて」と天音が口を開く。

「御樹君、好きな人とかいるの?」

「は? 何?」

「なんとなく気になってね。こんな状態で創作物についても話し辛い」

 後ろに関しては御樹も同感だが、だからと言ってコイバナをする故もない。恋人じみたふざけた行為こそ続行中だが、それも天音の発案。おかしな気分になられても困る。

「いたらなんだよ。悪いとでも?」

「いや、別に。いるの?」

「いるよ」

「へぇ……」

 そう言って、コートのポケットに手を入れる。両者無言のまま歩みを進め「それだけ?」と遅れて反応。

「うん。気になっただけだから。それより、相合傘って惚れてる方が濡れるって言うよね?」

「それだけじゃなかったな? 凄い濡れてるんだけど?」

「そうだね」と微笑。こうなると御樹が天音を想っていることになり、まぁそれはそれでドンピシャなのだが、本人からすれば恐ろしい限りだ。態度には出さないようにしつつも、小さく溜息を吐いてしまう。

「今のはセコかった。君の提案に従っているのに、馬鹿にされる謂れはない」

「いや、ごめん。さっきも言ったけど、君は優しいね、ってこと。優しい人は好きだよ。御樹君の趣味は、えっと、クール系の華奢な子だっけ?」

「その特徴は君にも当てはまるから今だけは言うな。しかも自覚あったのか……いや、そうじゃない。サブカルは話し辛いんじゃないのか」

「そうだけど、結局それしか話すこともないよね」

 それもそれで御樹は同感。話し辛いとは言えども、他に適解があるでもなし。なるべく妙な雰囲気にならないよう、性癖についてでも話している方が気楽だろう。

 二次元の性癖と現実の性嗜好とは、大概の人間にとって全く別のことだ。突き詰めていけば同じことなのかもしれないが、ビッチロリ分からせ失敗腰振りワンちゃん同人誌ばかりを読んでいる人間が、現実でも女児にその役目を求めることは少ない。単なるペドフィリアならば話は変わるが、兎も角少ない。故に、どんなにクソみたいなことを語っていても、目前の相手に対して抱いている悶々とした感情を中和しやすい。

 しやすい、筈。それが彼の考え。あくまで考え。

「御樹君はさ、自分の趣味の大元なんて覚えてる?」

「どうだろう。やさしいあくまで号泣してたことは記憶にあるんだけど」

「それですれ違いと悲劇が好きになるんだ。最悪だね」

「そうなるのかな。で、木元さんは?」

 尋ねると、彼女は宙を見上げて「んー」と唸った。「人間失格……」と物騒な単語も出てくる。

「いや、流石に違うか。おまえ うまそうだな……とか?」

「僕と同じようなものじゃないか」

「いや、そうじゃなくてさ、映画があるんだよ。知ってる?」

 目を丸くして「知らなかった」と応答。何せ、幼稚園で読んだような絵本だ。各メディアの展開まで網羅することもない。

 尺にもよるが、映画に対して絵本は情報不足だ。多数のオリジナル要素をぶち込むか、続編の要素を投入するか、そこら辺だろう、と御樹は勝手に予想する。

「そもそもね、私はあのシリーズをいたく気に入っていたみたいで、お母さんも買い集めてくれていたんだ。それで映画があることにも気が付いて、TSUTAYAでレンタルしてくれたんだけど、いや全く、幼児ながらに落胆したよ」

「それはまた、一体どうして」

「他は良かったと思うんだけれど、しかし、結末がね、離別しないんだ。それが気に入らなかった」

 趣味の悪いことを無表情で言った。御樹は首元をかき、ちょっと返事に躊躇いつつ、息を吸う。

「……嘘だと言ってよ、木元さん」

「いや、本当に心底うんざりした。それより適応力凄いね? あれも小説版でifでしょ?」

「だから好きなんだよ。一流の悲劇よりは三流のハッピーエンド。稚児は特にそうだろ」

 そうなると「すれ違いと悲劇が好き」という先の言葉も否定することになりそうだが、なんら間違ってはいない。悲劇として完成された作品自体は大いに結構だが、それはそれとしてキャラクターが不憫でならない時がある。そうすると、結局は喜劇を求めてしまうわけだ。間違ってはいない。

 ところが、天音は「分かるけれどさ」と肩をすくめる。「同時に子供は勝手なものだよ。で、数日の間考えている内に、嫌なことに気が付いた」

「というと?」

「私は別れを楽しむためだけに映画を見ていた。つまり、ひたすらに心苦しい離別のみを待ち望んでいたこと」

「じゃあ、やっぱり僕と同じじゃないか。生の全てが死の奴隷だってなるんだろ」

「いや、そこまでは言っていない。趣味が悪いよね、君」

 喉元から音を出し、御樹が顔をしかめた。便乗したつもりなんだが。

「思うに」と天音は続ける。いつの間にやら、表情はどことなく真剣味を帯びていた。

「喜びにせよ悲しみにせよ、既に生じたそれを侮蔑され、奪われることは、私にとって最も深刻で我慢ならないことなんだ。それが性癖」

 車の通りのある道路に出た。天音が丁度言いきったところで、赤信号で立ち止まる。通常ならここで別れるところだが、今回は御樹も信号を渡り、また狭い路地に入るつもり。

「すまない。正直分からない」

「今の言葉だと限定的かな。傷も輝きのそのひとつ、とか、左目の傷が自分を自分足らしめた、とか。そういうのが好きなんだよ」

「傷ばかりだな。まぁ、いいと分かりきっているものを一々肯定もしないか」

「そうだね。だからこそ、忌事を受け入れる美徳が際立つ」

 結論部分で反対のことを言うからややこしくなる。どんなものであれ、感情と存在の痕跡を奪われないこと、忘れ去らないこと、受容すること。それが好みの姿勢だと言いたいのだろう。性癖よりも思想に近いところがある。

「じゃあ、あれか。炎柱生存ifとかは無理なわけだ」

「そうなるね。あ、でもポケ戦は読めたよ」

 青になった。歩調を合わせて渡る。

「悲しみが強ければこその改変だと理解出来た。あれならヨシ!」

「じゃあ煉獄さんもいいと思うけど」

「安易でなければね。逃避は好かないよ。なかったことにしてはいけない」

 彼女の横顔をじっくり眺めるが、鬼滅キッズ御樹からすると細かい違いが分かりそうで分からない。しかし恐らく、天音がヨシ!と言えばヨシ!で、ヨシ!と言わなければヨシ!ではないのだろう。ヨシ!

 尤も、1つ死を取ってみても色々なシチュエーションがある。犬死には悲劇の構成要素であり、物語を進めるために命を使い果たすのとはわけが違う。後者のそれを否定することは、キャラクターの意志も尊厳も存在意義も、そしてその死が与えた影響をも拒絶し、ふいにすることになりかねない。それは彼にも分かる。無論前者についても、他者に遺すものはある筈だが、いずれにせよ、杏寿郎はあの夜死んで良かった。

「自分達のことに引き付けて考えてみよう。仮に私が今日死んでしまうとして、けれども、私に関する記憶を消せるとしたら、御樹君はどうする?」

「どうするって、どうもしない」

「良かった。それって、私との時間が価値あるものだった証左で、しかも、私を失う痛みさえ御樹君は大切にしてくれる。そういうことでしょ? そのことを知れると嬉しいんだよ」

「あー、なるほど。その表現ならそれっぽいな」

「末には、私は御樹君の一生消えない傷になる。お得だと思わない?」

「あぁ……なるほど?」

 急に危ない話になった。それはまた別の性癖じゃないか、と思うが口にはしない。

 限定的なようでいて、包括する範囲が広いのかもしれない。痣を受け入れ、血肉とすることと、痛みをそのままに、生涯抱えて生きること。全く違う両者ではあるが、天音の嗜好的にはオールオッケー、なんだろうか。

「どうせなら君の目の前で死にたいな。それがいいかも」

「冗談キツイいよ。余所でやってくれ」

 御樹は引き気味の苦笑いだが、天音は例の如くゆとりあるスマイル。エキセントリックな冗談を口走るのなら、それに見合った表情をしてほしいものだ。

 性癖と実際の性嗜好は別、との考えの御樹でも、ここまで言われるとちょっと怯む。まるで非現実的な物言いではあるが、その中にさらりと自らが組み込まれているのが厄介――そもそもなんでこんなにクソ生き恥をさらして相合傘しながら痛みだの傷だのと惨めで滑稽でつまらない話をするんだ。禍福は糾える縄の如しだろ。純粋無垢なるキッズクズの姿か? これが……

「まぁ、最期に関しては追々相談しよう。楽しみは後で取っておくものだし、それまでは好きに踏みにじってくれて構わないよ」

「急に飛躍、いや、1周回って普通の異常性癖型かァ?」

「マゾヒズム程には倒錯していないつもりだけど。単にほら、痛みという実感を伴って君の存在を近くに感じられるとしたら、温かいよね?」

 下唇を噛んでから「そうか?」と疑問を露わにし、一呼吸置いて「……そうか?」

 天音が吹き出し「ごめんごめん」と軽く言う。「この領域は君には早かったね」

「うわ、タチの悪いマウントだ。性癖が尖ってればいいと思ってるヤツだ」

「まさか、そんなこと。貪欲は卑しいことだと知ってるよ。君の罪さえ喰らいつくそうだなんて」

「なんで僕が罪を犯す前提なんだ。そもそも普通に考えて、僕は下、君は上だ。足蹴にするのは君」

「いいや、私はずっと御樹君を見上げてる。マウントポジションで首を絞めるのは君だよ」

「またまた……」と御樹は受け流そうとするが、天音が距離を詰め、わざとらしい上目遣いで彼を見つめる。

 彼は童貞なので滅多に褒めることもないが、天音は色白で端正な顔立ちをしている。ベタ惚れしている馬鹿などは少なくとも校内1の美人と信じているくらいであり、尤も他の誰もそこまでは言わないが、悪戯っぽい微笑を評価する声は多い。演技ったらしい素振りが許容されているのも、まぁそういうことだろう。

「木元さん。近い」

 したがって、突然接近されると少々焦る。

「今のでどっちが上か分かった?」

「十分に分かったから、本当に離れてくれ。貞操観念が黙っちゃいない」

 目を細め「ふぅん?」と嘲弄。1歩遠ざかり、見せつけるように肩を落とす。

「分かってないよ。全然分かってない」

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