第62話 夏の決心

 ただただ庶幾う。届け。


 

 前奏曲

 

 「夏の決心」と聞いて、あなたは何を思うだろうか。もちろん一般の名詞としても使われるだろう。みなさんは、大江千里という方を知っているだろうか。今はジャズピアニストとして活躍されている、二十年くらい前の歌手さんだ。その方の曲名が「夏の決心」だ。僕の周りにこの曲はおろか、大江さんすら知らない人がほとんどだろう。僕が知ったのは、完全に母の影響なので、それがなかったらみんなと同じ、この方を知らない高校生だっただろうと思う。いろいろな糸が組み合わさって生きているんだと実感する。まあそれは置いておいて、他にこの方で好きな曲は「君と生きたい」と「Rain」とかかな。他にもあるけど、まだ有名な曲だろうと思う。僕がきっかけだというのはおこがましい気もするが、聞いてみてほしいと思う。「Rain」は新海誠さんの「言の葉の庭」のエンディングで秦基博さんが歌ったから、そっちを知っている人はいるかもしれないな。まあ、とにかく聞いてみてということを推しておいて締めることにする。



 独奏歌


 暇だからという理由で、寮の規則を若干違反したかもしれないが、散歩にでる。今日は帰省日だが、親が迎えに来てくれるまでにはあと2時間あった。歩くのは見慣れた松山の街。街というより、山といったほうが適切かもしれない。その道は通ったこともあるし、目的地がどんなところかも知っているが、こんなに見える景色は違う。一人で来るとき、友達と来るとき、また別の友達と来るとき。見える景色はすべて違う。多分、僕も違う。今日は目的地の最深まで辿り着くことができた。この展望台はよくわからないな。ギリシャかな、フランスかな。前来たときは、上に登れないようになっていたんだけど、今回は一番上まで行けてよかった。松山を一望すると、別に王さまになった気分っていうわけではないけれど、心地よく感じる。蛇口をひねる。これも、前来たときは貯水規制みたいなのがあって、水圧がえらく低かったんだけど雨が降ってくれたおかげで石手川ダムが満水になったから、水圧が元に戻っていて、水を飲む用の上むいた蛇口に顔を向けていたら勢いがよくて若干、痛ってなってしまった。水がどぼどぼと流れていく。もったいない気がする。いちいち止めたほうがいい気もする。まあ、水は循環しているから。それで他愛ない話をしながら寮に戻る。迎えを待つ。こういう、「他愛ない」というのがどれだけ大事だというのがわかるのがそのうちわかるだろう。時間は経つ。しばらくして、迎えが来る。楽しみにしていたことというのは来てほしい気もするが、来てほしくないという気もする。誰かが言っていた「旅行は準備が一番楽しい」というのに似たような感覚だろうか。終わったあとにはなんとなく喪失感しか残らない。それが、楽しいものであったのであればそうであるほど。車内は割愛(けっこうおもしろい話したけど。)して、家につく。夜ご飯を受け取って家に帰る。父は料理ができない。しようとしたらしてくれるのかもしれないけどね。まあ、ここに日記的なものを書いても仕方がないか。あたりはすっかり暗くなって、散歩に出る。本日2回目だ。30分くらいで帰ってくるつもりだったけど、実際は90分くらい歩き回っていた。まあ、ひとりじゃないっていうのが一番大きいかな。いつも僕が散歩したり、走ったりしていても15分くらいで帰ってくることが多いように思う。僕の小学校、中学校と母校を回る感じで行路を決めて歩いた。変に寄り道とか、最短じゃない道とか通ったからかな。だって、みんな部活が終わって、そのまま家に直帰とかしないでしょ(するかもしれないけど)。そういうところも歩いているといろいろ思い出すこともある。ただただ広がっている田んぼとか、流れている水路とかそういうのがただただ愛おしい。僕はただ懐かしいな、としか思わないのだけれど。「しか」とかいったら、また別の印象を与えてしまうかな。最大限の感情の波は起こっていると弁明しておこう。その道、土地がそもそも僕が好きだから。彼も好きと言ってくれた。彼が、いるはずのないここにいると、不思議な感じもする。周りには田んぼしかない。そして、街灯もない。若干進んだところに、僕が中学の時によく寄っていた神社がある。幸せだったと、今さら思っても手遅れじゃないかな。家に帰る。風呂に入って、その後何をしようかという話になる。なんとなく人生ゲームがあったから、それをすることにする。それは30年前の新品で、父がくれたものだ。今回みたいに、誰か人がいないと、ずっと開けることはなかったと思う。少しだが、感謝しておく。書いていることも結構昔のことが多くて、そうだったんだなとか時間の差を感じながら遊んだ。運で数億単位のお金が動くんだから、不思議なゲームだ。一回目は賭けに勝ったが、二回目は不必要な賭けに乗ってしまって、負けてしまった。いくら徹夜しようと息巻いていても、結局は睡魔には勝てない。午前三時に寝てしまった。


 アラームの音で起きる。もう、半分以上が消えてしまった朝だ。左を見ると君がいる。この光景は慣れているけれど、ここが僕の部屋というのもあって慣れていない気がする。四時間後には目は覚めていたけれど、結局もう一回寝たから、午前9時まで寝ていた。朝ごはんは用意されていたソーセージと目玉焼きを食べる。いくら父でもこれくらいは作れるらしい。予定より遅れた出発になったけれど、結果的に見たら良かったのかもしれない。お互いに自転車に乗るのは結構久しぶりだから、危なっかしかったかも。まず向かったのは加茂川。同じ読みをする川に、京都に鴨川があるが、僕はどちらも好きだ。川に行ったからといって泳ぐわけではない。冷たいといって水に触る、ポケモンのように足まである草むらを進んでゆく君。その後は、行きたいと言っていた図書館に向かって進む。道はもうひとりが知らないから僕が好きな道を決めることができる。遠回りでも僕の好きな道を進む。古めのシャッターしか見えない商店街を歩く。たまたま製菓店を見つけた。少し通り過ぎたけどよっぽど気になったので戻る。売り物はとても少なかったけどよもぎ餅があったので買う、ふたつ。綺麗な川が街なかを通っているものだ。その上に遊歩道があるのだがこれがとても好きだ。浮いているみたいな感じになる。沈んだら怒るかもしれないけれど、それはそれで喜ぶかもしれない。まず、間違いなく笑える。夏だし。途中でいくつか地下水が湧き出ているところがある。これは西条市の名物だ。川より冷たい。地下水の温度というのは一年を通してほとんど変わらないらしい。まあ、今はどうでもいいことだ。川を眺めながらお餅を食べて図書館に向かう。なぜ、まず数学のコーナーに向かう。文系だろう君は。しばらく物色して、昼ごはんを食べに向かう。とても安いところなのだが僕は1000円分くらい食べてしまった。ポテトとか、ナポリタンとか、太鼓まんとか、最高の店だと思う。僕は個人経営の店に弱い。さっきの製菓店みたいに。その後はクレープ(大好き)屋さんに言って、高校にいって、集合場所に向かった。


 2人でも、2人のほうがよかったと思うかもしれないが、4人で遊ぶことにする。ゲームセンターなんてあまりいかない4人だから、何をしたらいいのかわからない。太鼓とか車のゲームで時間を過ごして、ボウリングをする。こんなに僕は下手だったかな。今度、一人で練習をしに来たいとも思うけれども、一人で入るのには結構な勇気を伴う気がする。夕食を食べて、解散。帰り道も、他の人たちは誰も知らない道を通っていく。なんか、僕だけの世界に誰か紛れ込んでいるみたいだ。せっかくだからとまたまた、僕が好きな道を通る。最短経路よりか20分くらい多くかかってしまったかもしれないけれど、まあ仕方ない。前日の散歩の道と同じ道を進んでゆく。



 協奏曲


 夏はいい。ただ、僕は冬のほうが好きかもしれない。寒いのはどうにかなるけれど、暑いのはどうにもならないからだ。そうはいっていても、夏になると冬が恋しくなり、冬になると夏が恋しくなるのはいつものことだ。それでも、冬が好きっていえる。「まふゆ」が好き。夏休みは、他の長期休暇に比べると圧倒的に長い。今年は嬉しいことに1か月くらいある。ただ、気づいたらもうほとんど終わっていた、なにもしていないっていうことになってしまうかもしれない。それはそれで、一日一日の僕はそれでいいって思っていたはずだ。ただ、今の僕、そして1か月後の僕はそれでいいとは思わないだろう。この文章の題名通り「夏の決心」をしよう。細かいことを決めても、厳しいことを書いてもできないので漠然としたもので置いておこう。「この夏、2022年夏、成長したって思う。」以上。何に対してとか、いろいろあるけど別にい。僕はわかっているはずだ。ねえ。


 願うこととと、実行することは違うし、かけ離れていると思う。そもそも「願わないと始まらない」っていうのは当然のことかもしれない。だから、まず僕も願う。届け、と。何に対してかはよくわからない節もある。別に構わない。ただただ、未来の自分がいいものになっているように願うだけだ。そのために、今できる最大限のことをしていなければならないという厳しい前提が待っているのだけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る