第53話 夏の始まりに想うこと

僕が好きだった、春は終わった。必然的に夏が来る。

今年は梅雨にいつくらいから入るのだろうか。

梅雨は、得も知らない高揚感に苛まれるけれども、早く去ってほしいとも思う。


夏というのは不思議な季節だ。

そもそも、季節が不思議だ。温暖湿潤気候じゃないと四季というものは存在しない。


夏に早く来てほしいという人もいれば、暑いのでそもそも来てほしくないという人もいる。僕だって、亜寒帯とか、温帯の中でも寒いところに住みたいとは思ったことはある。汗をかくことは好きではない。ただ、本当に暑いときに、好きなだけ体を動かしたあとに、お風呂に入って、冷房の効いた部屋でアイスを食べるのは好きだ。実際、夏がないということを経験したことがないのでよくわからないけれど、恋しいものだとは思う。「生きている」ということを実感することっていうのは何回かはあると思うけれど、「夏」に経験したのは覚えている。


あれはとある夏の暑い朝...

というふうに回想に入ることはしない。それはまたどこかでやってくれる。



心に小さな泡が集まっていくようだ。

なんとも言えない期待感が夏を包む。

いや、その渦中にいる僕を包む。


この夏は二度と戻ってこないというのはよく聞く言葉だ。

それは中学校とか、高校生活に限らずいつだってそうだ。

ただ、高校生とか中学生の「夏」は、特別なもののようだ。僕がそうかはわからないけれど。中学校のころは部活ばっかりの夏休みだったな。さすがに3年生になると部活は停止するけど、勉強ばっかりしていたんじゃなくて遊んでばっかりだったと思う。真夏の部活からの帰り道。夕日が見えるまで練習した日。真夏の大雨の中で、紫とも黒とも言えないような空。今はもう、鮮やかに心のなかに浮き彫らせることはできない。取り戻すことはできない。そのとき限りのことだから。今書いていると、寂しいことのように思えるが、別に構わない。その一瞬はなににも代わることのない、輝いているものだったから。



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