第49話 無題 2022.6.1

 有名な人が言って、今も残っている言葉には何かしら意味がある。

そもそも、有名な人が言わないと、なかなか言葉は有名にならない。SNSで内容のないことをただ呟いているだけなのに、山のようにハートがついているのを見ることがあるが、それはひとえにその人が有名だからだ。とある業界で成功した人がいるとする。そして、その人がかっこいいことを言ったとする。それを、夢物語だとか、勝者が好きなように言っているだけだとか、好き勝手に批判するわけにはいかない。自分の状況はとりあえず置いておこう。成功する人を羨ましがるには、自分ができることは必ず、最大限にしなければならない。もしかすると、今の最大限では足らなくて、それからまたまた意味わからないくらい努力をしなければ見えないかもしれない。そうじゃないのに、あーだこーだ言っているとただのひっつき虫みたいになってしまう。そういう人は山のようにいる。SNSを見ていても、おかしいなと感じることはある。あんなに、考え方とか価値観が共生している場所はなかなかないだろう。この「無題」も一種のコミュニケーションツールと言えるかもしれない。


 すぐに、諦める人がいる。努力したのに、できる限りのことはやったのにという人もいる。それはそうだ。軽々しく嘘をつく人ばっかじゃないと信じるとすると、その人はできる限りのことはしたはずだ。それでもできないときはあるのは仕方ない。僕が今から、なにかの競技を極めろと言われても困るだろう。王貞治さんの有名な言葉がある。それはここでは省略させてもらうが、「報われない努力はない...」から始まるものだ。王さんは、一般の人たちには想像できない努力を重ねてきたらしい。王さんが言うから、こんなに響きを持つんだろう。この言葉を体現しているみたいな人だから。この言葉はいかにも聞こえはいい。やっぱり、なにをするにも努力は欠かせないけれど、その量は人それぞれだ。生まれつきそれが少なくて済む人も、もちろんいるのだろう。そして、ハンパじゃない人もいる。成功している人が努力をしているのは当然なことだろう。別に僕は勉強ができるわけじゃないけれど、「天才」と呼ばれるのが嫌だったのは覚えている。自分が批判する人と、同じくらいのことをしてから初めてその人に向き合うことにしよう。ただ、そういう人って、自分の努力を見せたりしないことが多い。運は確実に存在すると僕は思っているけれど、それは今度書くとしよう。


 僕は。「やればできる」とは言いたくない。「為せば成る為さねば成らぬ」という上杉鷹山の有名な言葉がある。これは「やればできる」みたいな簡単なことじゃなくて「やったのでできる」の訳が正しい。「念ずれば通ず」という言葉もあるが、それはやはり「自分ができる、そのときにはできなくても、最大限の努力を続けて上へ向かう」という言葉が省略されている。今の高校生活すら楽にいくことはできない。それで、「やればできる」みたいな考えで社会に出たらと思うと、僕も怖くなる。


 ここまで偉そうに書いてきて、僕に苛ついたのであれば仕方がない。今回で、もう読まないって思われたかな。でも、僕が謝る対象は自分自身くらいしかいない。念のために言っておくと、僕は別に努力ができるわけじゃない。それじゃいけないっていうのは数年前からわかっている。そっち側の人間には程遠い。それを周りにしている人がいるから怖い。その人にとっては、なんらおかしいことではないんだろう。この文章だって自分の啓発のために書いている部分が多い。夢物語を連ねているだけだとしても、それが自分にとって少しでもいい影響を与えているのなら別にそれでいい。僕が書いているのは、いつにも増して理想論なのか?


 けっこう努力していても、効率とか要領の良さでうめられたらちょっと変な気分になる。それを、さらなる努力で埋めようと僕は強い気持ちを持っているわけではない。ただ、16歳で諦めるわけにはいかない。悲観的には死ぬまでになりたくないし、死んでからもなりたくない。「こういう人間」っていうと、だいたいのひとはああそうかと言って自分から引いていく。そこで、「違う」と言ってほしいものだ。「自分ってこういう人間」ってたった一言で形容できるわけがない。それより、そうやって言うことは自分を閉じ込めているのと同じことだ。自分を束ねている。無限の可能性があるとは、それこそ僕が言うような言葉じゃないだろう。ただ、全方向に向かって「今の自分」が、このまま、まったく変わらないということはないだろう。変化は必ずしもいいものではないということは何回も言っていることだ。


 小説は夢物語だ。成功体験記は人それぞれの感じ方があるだろう。なにかで成功した人はとりあえずそれはそれですごい。まあ、とにかく、この「無題」は夢物語にはしたくない。今回は理想的な部分が多いように読めるのだろうか。別に僕にそういうつもりがあるわけではない。自分を導くものだ。



 諦めるななんて、身勝手なことは言われたくないが、諦めてもいいよなんて無責任なことはもっと言われたくはない。そんなことを言う人はなにがあっても絶対諦めて来なかった人だろう。説得力のかけらもない。



 逃げるときには理由が欲しくなる。人間は弱い。

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