第43話 無題 2022.5.26

 最近はだいぶ暑くなった。僕は、暑いのと寒いのとどちらが好きかと聞かれたら、寒いほうだと答えるだろう。理由は至って単純で、寒いのは服を着たらどうにでもなるけれど、暑いのはもうどうしようもないからだ。空調を効かせるくらいしか対策がない。僕の教室の空調の効きが悪いという愚痴のひとつも言っておこう。校舎は去年に新しくなったのに、エアコンの効きが悪くなったというのは少し不思議だ。


 暑いのと寒いので、寒いほうが好きと答えたくらいなのだから、僕はけっこう冬は好きだ。中間の季節が一番ちょうどいいのだけれど。今はもう、中間の季節は過ぎてしまった。どちらかというと夏に近い。古典の世界だと、夏ももう終わりに近づいている。今、僕は5月を生きている。それで、冬とか秋の空気はどんなだったかなと考えてみるけれども、正確に思い出すことはできない。やっぱり、あの風が吹いていないと。中学校に寒い思いをして自転車で毎日通っていたのを思い出す。冬に部活の大会があるとき、午前6時くらいに学校集合で、本当に布団から出たくない思いをしていたのを思い出す。部活が終わって、午後6時くらいで、外は本当に暗くて、ただ踏切が上がるのを待っていたのを思い出す。


 過ぎたときはもう戻って来ないんだ、というのをふと思い出す。そうなるとけっこう長いこと考えてしまう。今が特段悪いとはいいたくないけれども、中学校は本当に楽しかった。前、少し悲しくなったのは小学校からの友達に名前で呼ばれたときに違和感を持ってしまったことだ。ここでは誰も、僕のことを名前では読んでくれない。名字だと、記号のように感じてしまうこともある。そんなことはなくて、代々受け継いできた本当に大切なものということは知っているけれど。誰も、友達とかのことを名前で呼ばないから僕もそうなってしまう。中学校のころなんて、3回くらい話したらもう名前で呼んでいたのに。


 中学校のころに限らず、幼いときというのは本当に環境が頻繁に変わった。すぐに、ころころ変わる。そして、みんなそれを求めている。「変化」を求めている。ただ、高校に入ってから「固定化」を好んでいる人が多いんじゃないかと勝手に考えている。どっちがいいとかいう話ではもちろんないのだけれど。


 かといって、別に僕が変化が好きかといわれたら別にそうじゃない。それが怖いというのは何回も書いていることだ。「固定」が待っているのは腐敗のみだ。「変化」は向上か、さらなる腐敗かふたつにひとつ。このままで生きていけるなら、なにもせずにそのまま生きていきたい。たぶん、それはできる。変わらずに生きていくことはできる。多少不便だし、自分に納得がいっていなかったとしても。

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