第38話 一期一会

 張り詰めた空気の中で生きていたら疲れてしまう。

すでに疲れていたとしても、いつかは動けなくなってしまう。

要するに、なにか癒やしとなるものが必要だ。僕はなにを求めるのか。


 自然だろうか。


 壮大なような書き出しで始まったが、僕が自然を感じてきたこと、また、人とのつながりというものについて書いていこう。僕が行ってきたのは香川県の直島。僕は愛媛に住んでいるが、なにかのきっかけで行くことになった。元から、その島は知っていて、そもそも僕は島が好きだったんだが、なにより、結構遠いのでなにかきっかけがないと行くことはなかっただろう。まあ、今回は僕の寮生の友達がそのきっかけをくれたということだ。学校が休みのときに愛媛と香川の高校生が一緒に島に遊びに行くというのもなかなか不思議な光景だろう。うん、不思議なものだ。


 島は当然、よかった。言うまでもない。有名な赤かぼちゃも見ることができた。瀬戸内国際芸術祭が開催されているからか、多くのアート作品があった。天気も晴れていて、温度もちょうどよかった。風は強く吹いていたけれど。自転車で移動したから、風と起伏は手強かったけど、今こう見ると、疲れたことも楽しく思えてくるのだから、これもまた不思議なものだろう。



 人との付き合いというのは、悲観的とかなんでもなく、いつかは終わる。そのときどきにどう、いい付き合いをするか。たとえそれが一瞬だったとしても。


 あくまで偏見かもしれない。島の時間というのはゆっくり流れているように感じる。「雰囲気」が本土とは違う。いるだけで、非日常が感じられて、穏やかな気持ちになることができた。僕が人と話したのはだいたい3回くらいだろう。


 ひとつは、写真を撮るのを頼んだことだ。こういうのがさらっとできたらいいんだけ。僕にそんなに会話力があるわけではないと思うけど、無事頼むことができた。ありふれた言葉だと、必要なのは技術とかじゃなくて勇気だけだろう。


 ふたつは、あるカフェでのできごと。僕と、その友達が立ち寄ったのは古民家のようなカフェ。特に理由とかはなかった、僕がのどが渇いていたかもしれないけど。まあ、そのあと抹茶を飲んで、余計のどが渇いたというのは置いておこう。僕は今までそういう島にあるカフェに寄ったことがないのでわからないけど、そのカフェは会話が弾むところだった。先客の人たちがよく話していた。しれっと入っていったが、話しかけられた。またまた、自分では会話が弾んだと思っている。どうせこの一回限りの付き合いだと、みんなわかっているから気軽だったのかもしれない。ともかく、楽しい時間を過ごすことができた。ほんの20分くらいだっただろう。カフェから出ていくときに虚しさとか寂しさとかを僕は感じたのだろうか。そのときは、あんまり感じなかったんじゃないかな。別に今も感じているわけではないけど。そういうのが、ほんの短い時間でも大切にできてよかったと思っている。たぶん、そこを適当に済ましていても特に深く悩んだりはしないだろう。たかが一回。されど一回。今、ずっと一緒にいる人だって、ずっと一緒にいるわけじゃない。1秒先の未来は誰も保証してくれない。だから、今のこの「僕」がその、全く知らない人とのつながりを、最大限に大切にできたことが嬉しいんだ。


 みっつは、帰りの電車の中でのこと。すこし、いい子ぶっておこうか。2列✕2列のシートの特急自由席だった。多くの人が、自分の横の席に荷物をおいていた。僕の荷物は少なかったし、スマホの充電がなかったので、なにか刺激がほしかっただけかもしれない。まあとにかく、片方の席を開けて置いたわけだ。自由席だから、そうするのが普通なんだろう。それで、思っていたとおり誰か座ってきた。僕より30くらい上の人だろうか。きっかけは、リクライニングの不調だったんだが、またまた話は弾んだ。本当に不思議なことだ。その人は途中で降りたが、そのときまで楽しい時間を過ごすことができた。


 この遠出であった人とはもう、一生会うことはないのだろう。別に悲しいとは思わない。薄情かな。まあ、そういうものだから仕方がないだろう。本当に、本当にこの一瞬を大切にしていないと、いつか、後悔してしまう。実際、したこともある。それは取り返しのつかないことだ。できるだけそんな思いはしたくない。いつもできる訳じゃないけど、心がけてはいたいものだ。

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