この話の続きは

炭酸水を口に含む。抹茶の後味と混ざり合って、存在してはいけない味になってる。

味覚と炭酸が僕の脳と喉を刺激した。

「あるとき、少女は困難にぶち当たった。告白をしなければいけなくなった。」

「引越しの告白かい?」

「いえ、まぁ、告白です。その告白に猶予はなかった。時間が経てば、そのタイミングはなくなる。でも、少女は告白なんて生まれてこの方したことないし、心について離れない呪縛が痛めつけて、どうも足が一歩前にはでない。「誰かに背中を押してくれれば、もう少し先へ行けるのに。」そう思った。」

「誰に押してもらおうとしたんだい?」

「”誰に”というより、”何に”ですね。少女は、”オカルト”を追い風にしたんです。」

「……なるほど。」

「まずは日取りを決めなければならない。今はネットが何でも教えてくれます。一粒万倍日は告白に適した日と書いてあるのを見た。日程的にも、問題はない。選ばないわけにはいかないでしょう。」

先輩は景色のほうをずっと見ている。

「次に場所です。その告白は縁結びの神社を選ぶべきものだった。そして、見つけた神社のおみくじはよく当たると有名な神社であった。またこれも、選ばないわけにはいかなかった。おみくじに自分の行く末を指南してほしかったからです。それに、縁結びの神様のご加護を頂戴したかったという理由もあります。」

先輩は黙って何も言わない。

「そして、決行の日がやってきました。前日にメールで相手を呼び寄せ、「いざ鎌倉!」の気分で出発した。」

「武士のような心持で来たんだね。」

「途中何もなく、その相手と楽しく過ごした、と思います。多分。」

「たぶんか。その少女は途中デコピンされたりしたんじゃないか?」

「そうかもしれませんね。相手側は楽しくさせられたか不安だったと思います。」

「そうかな。私は少女が楽しんでたと思うよ。」

「そうですか。」

「そうだろうよ。」

少しの間、沈黙が走った。

「少女は神様にお祈りをします。「告白が成功しますように」って。そのあと…。」

「そのあと?」

「予定通りおみくじを引くんです。僕の乏しい想像力じゃ、少女のおみくじに書いてあったことはわかりません。でも、少女が相手の引いたおみくじが気になったんだってことは想像できます。それは、告白に関係があったから。」

先輩はまた何も言わない。

「そのあと、相手に意味の分からない推理を聞かされるんです。違いすぎて気分を落とすぐらい。」

「さぞ、気分が悪かったろうね。……続きは?」

「ありません。」

「ないのか?」

「ええ。」

「そりゃ、まとまりのないつまらない話だね。」

「でも――」

「でも?」



「でも、もし、彼女が告白するのなら、告白はうまくいくと思いますよ。」

先輩は驚いたような顔でこちらを見る。

「なんで…。」

「僕には、少女が告白をするのかしないのかはわかりません。だから、告白した世界線の話をします。相手は、例え神様の力を借りたって、おみくじに指南されたって、最後まで自分の足で前へと進んだ少女を裏切るようなことはしないと思います。だって、その相手、容姿も性格も完璧なイケメンですし。」

「ほんとにそうかな。」

笑うような声で返事をする。もう張り詰めた声はどこにもない。

「お話の中の人物なんで僕がどう想像してようが勝手じゃないですか。」

「そっか。……例え、その少女が相手の力さえも借りて告白しても?」

「もちろん。」

先輩の手から何かが落ちる。拾い上げて見ると、どうやらおみくじのようだ。

「「どうやらおみくじのようだ。」じゃない!早く返せ!」

珍しく顔を真っ赤にしてこちらに詰め寄る。でも、僕の背の高さでは届かないだろう。

「先輩、思考盗聴しないでください。」

少し湿ったおみくじを開けて見る。

待ち人の欄には”そこにいる。”と、縁談の欄には”早くしろ。”と書いてあった。

「なんか推しカプに対するオタクたちの叫びみたいなこと書いてません?」

「早く返せこの野郎!」

きれいな回し蹴りが僕の弁慶へクリーンヒット。(変な意味じゃないよ。)

膝を抱えて動けなくなるまでそう時間はかからなかった。

「なんとまぁ、”方法”を教えてもらうとしたのに早くしろだなんて、意地悪な神様もいるもんですね。」

「意地悪は後輩だろぉぉ!?……もうお嫁にいけない。」

「僕が引き取ってあげますよ。」

「まるでペットみたいな言い方だな。」

「不満でも?」

「……ない。」

「よぉ~く聞こえなかったなぁ。」

「ふん。「もう、今日は何もしない。」って言ったの。」

「そんな量喋ってなかったでしょ。」

先輩は元来た道を辿り始める。

「告白はいいんですか?」

「ここでしたら、勢いで告白したみたいになるじゃないか。それに、今じゃなくても寛人はついてきてくれるだろ?」

「そりゃ、どこへだって。…って、後輩呼びじゃなくなってますよ。」

痛む足を前へ進める。

「寛人は寛人でしょ。」

「なんですかそれ。」

先輩は僕の二歩前を進む。

春風が僕らの背中を押した。

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春風の中で Aris_Sherlock @Aris_Sherlock

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