ヒーローのいる相談コーナー

葵月詞菜

ヒーローのいる相談コーナー

 私は小学生くらいの頃から日記をつけている。

 毎日続くこともあれば、数日、半月、一か月、下手をすると一年経って年が明けているということもある。

 それでも文章を書くのが好きで、手書きでノートに綴って来た。


 日記に書くことは楽しかった出来事だけではない。辛かったこと、ムカついたこと、その時直面していた問題など様々だ。

 そしてある日、私は自分の悩みを綴っていてふと思った。


 誰かに話したいけど、これを話せるような人が思い浮かばない。

 別にとやかく言われたくないけど、でも聞いて欲しい。

 誰かに読まれたくないけど、ちょっと感想とか聞いてみたい。


 読まれたくないのに感想を聞きたいなんて、しかも絶対読まれない自分だけの日記に書いているのに矛盾も甚だしい。

 だけど私はその時思いついてしまったのだ。


 あ、だったらどう返してくれるんだろ?


 あいつらとは――私の創作キャラたちだった。え? 何考えてんのかって?

 私も本当、そう思う。でもその時はよほど疲れていたのか、思いついた遊びを試してみたくて仕方がなかった。


 そして私に選ばれてしまった可哀相なキャラは、小学校の時からの付き合いになる「彼」だった。

 小学生から書き始めた物語の登場人物で――別に主人公ではない――、当時は私よりも年上の頼れるお兄ちゃんだったのに、いつの間にか私の方がずっと年上のお姉さんになってしまった。

 今でもついお兄ちゃんと呼んでしまうと、


「あなたの兄になった覚えはありません。作者もいい年なんですから、しっかりしてくださいよ」


 と塩対応で諭される。そう、彼はしっかり者で、みんなの頼れるお兄ちゃんだ。だからこそ不憫にも作者に相談相手役として選ばれてしまったのである。ごめん。


 それから、私はどうしてももやもやする時や自分の考えを整理したい時、この彼に相談する「相談コーナー」を始めてしまった。



 ちょっと聞いてよ! 今日○○があ~……


 またいきなり何なんですか。ちゃんと説明してください。


 あのね……


 

 ――こんな感じで、ひたすら私と彼の応答を打ち込んでいくのである。手書きはさすがにしんどいのでパソコンのワードにひたすら打ち込む。

 本当何してんだって? うん、私も何回も思った。

 でも不思議なことに、これをしてるともやもやしてるものが整理されて、だんだんやりとりがおかしく思えてきて、最後はなかばどうでもよくなってしまうのだ。


 キャラといっても私が創作したキャラだから、もちろんその思考の根っこには私自身の考えが影響していると思う。でもそれは言葉を変えると、キャラを通して自分を客観的に見つめることができるということでもある。

 自分に向かって自分が「やっぱりこうだよ」と正論を言うと、ええ~? と素直に受け入れられなかったりする。

 でも、大事にしてきたキャラに「こうじゃないの?」と言われると、「お、おう、そうかもな……」ってどこか素直に受け入れられることがある。

 まあ、場合によってはガチンコバトルになることも多々あるのだが、それはそれで楽しい。


 そうして一人で二人分のセリフを打ち込んでいるうちに、いつの間にかスッキリしてくる。

 満足した作者は、年下のキャラに「ありがとう! またね!」と笑顔で礼を言って、一方的に締めくくる。

 次にまた顔を出すと、彼はげんなりした顔で「またですか? 今度はどうしたんですか」と嫌そうな顔をするのだけど。


 そろそろ相談役を変えてあげようかと検討しているのだが、なかなかいい相手が見つからない。あくまで私の話を聞いてくれる相手でないといけないからだ。

 私の話を聞かずに、勝手にべらべら喋るキャラは私の方がお断りだ。――そんなキャラがたくさんいるのは私のせいなのだけど。



 さて、そんな日記の延長みたいに始まった私の楽しい(?)遊びは、いまだに続いている。

 結果的に、私を精神面で支えてくれる大事な遊びだ。

 「彼」が出てくる物語は、幸いにも数年前にやっと完結まで持って行けた。それだけの付き合いがあったからこそ、こんな相談コーナーが成り立つのだろうなと思っている。


 彼だけじゃないけれど、私はあなたたちに出会えて良かった。

 物語が完結してもなお、私を支えてくれてありがとう。


 だから、彼や彼女らは、私だけのヒーローなのだ。

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