第一章 突然の求婚者②
◆
太古の昔、
いつからか世界は、天界、人界、
天の
人界には、古代より六つの大国があった。
六雄の一、煌は、六百年の昔、
それを破る者があると、煌はたちまちに龍神の加護を失うといわれるが、
◆
煌国の都、
その名のごとく、春になれば都中いたるところに植えられた桃の花が
その季節が間もなく都に
大事に
(
久々の登城理由が主君から「
カチャ、カチャ、と歩くたびに
そこに広がる
(よかった……。なんとか花の季節の前に復帰できたみたい)
桃霞生まれの者にとって、この季節は特別なものだった。
花が満開になる
(……でも今年も、屋敷の桃花を見るだけで終わってしまいそうね)
なんとなく残念な思いを
東宮府とはその名のごとく東宮、つまり太子のための官府である。
さらに奥の東宮
「──これはこれは、豊舎人ではないか。久しく顔を見ていなかったが」
声をかけてきたのは
「はっ。しばらくお
「ほーぉ。そうかそうか。そのまま永遠に休んでおればよかったのにの~」
蔡太傅の
「はっ。ありがたいお
「やらなくてよいわーっ! そなたが働くとろくなことにならぬ!」
とうとう
「任務に出かけるたびに何かしら
「はっ!」
「はっ、ではない! このままいけば
がみがみと説教を
「お務め熱心でよいではありませぬか。それに豊舎人も破壊したきり
ちらりと視線を向けられ、結蓮は
「私の個人財産から
「そうであろうな。権門豊家にしてみれば、これしきの修繕費など
范太保が
「さっすっがっ范太保~! 豊舎人の事情までご存じとは、
横からわかりやすく
「のう、
「まったくです。そのとおりです!」
「しかし最初に立て
「あーら、
次の
「……ご
代表して口上をのべた蔡太傅に、東宮御殿のほうから出てきた女性たちが一様に
「お顔をおあげくださいな。せっかくお話しするのですもの、そのほうが楽しいでしょう?」
「そうよ。特に結蓮様。お顔を拝見したいわ」
「お会いするのお久しぶりですものねえ」
勝ち気な
とはいっても、太子は彼女らと本当の
若くして後宮に入った妃たちとは結蓮も長いつきあいになる。今日も彼女たちは
「ちょっと結蓮様! 三度目の
「お相手は確か、
「景妃様、それは二度目のお相手でしょう。三度目の方は
「まったくそのとおりですわね。こんなことを申し上げてはなんですけれど、結蓮様のお父君は
急に話を振られ、東宮官らはぎくりとした様子で目をそらす。彼らにしてみればなんとも答えにくい質問だから、無理もない。
「結蓮様も早く殿下の後宮にお入りなさいよ。そうすればもう
景妃の
「学問、香道、囲碁ときて、武の達人が妃に加われば、殿下の後宮は
「ぜひそうなさいませ。今すぐにでも!」
「いえ、私は……」
三人の美女ににじりよられ、結蓮は困った。彼女たちの会話を聞くのは楽しいが毎度最後にはこんな流れになるのだからたまらない。
「お妃様方! そのような
「ええ~。別にそんなの、気にしませんわ」
「殿下がご命令なさるなら、
蔡太傅が目をむいてたしなめたが、それがどうしたと言わんばかりに妃たちは顔を見合わせている。彼女たちにとっては後宮の仲間に
と、そこへ
彼女たちのさらに後ろからやってきたのは三十がらみの若い官吏。太子の
「お妃様方、そのへんになさいませ。豊舎人は
「まあ、そうでしたわ。ごめんあそばせ、結蓮様」
妃たちが
「皆様の過分なお
一度ならず三度も結婚が破談になったのだから、若い娘にとって不幸な話題には違いない。だが彼女らに悪意がないことはわかるし、むしろ心配されているのが伝わってきて逆に申し訳ない気分になる。
ようやく
「
「いえ、実は殿下のご命令なんですよ。豊舎人の登城をお待ちかねのようで」
秦少傅が
「ご
「はい、ありがとうございました。使い走りのようなことをさせてしまって申し訳ありませんでしたね」
「殿下のお役に立てるのならば、どんな任務であろうと
秦少傅が、くすっと笑みをこぼす。
「あなたのその太子殿下大事のご発言、このところ聞いていなかったので
少し口調をくだけさせた彼に、結蓮もいくらか
東宮府の次官である東宮少傅は、本来なら三十そこそこの若さで
だが結蓮は、彼は太子の守り役に適任だと思っていた。
「久しぶりの出仕なので、なかなか
「大変でしたね。でもあなたには
「ありがとうございます。私にとっては最高の
舎人の身分証である白と紅の
水を落としてぼかしたような
桃花園の先には、あざやかな
「──お気を付けください。豊老公がお見えになっておいでです」
声を落として忠告してくれた秦少傅に、結蓮は
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