第18話 食卓には笑みを

「さて、続いてのお料理に参りましょう。」


「あ、はい!」


ランスさんが軌道修正とばかりにその場を導いてくれた。


「えっと、次の料理は水ナスと塩漬け肉のチーズ焼きです。とっても熱いのでお気をつけください。」


ナスを縦に半分に切った上に、ニンニクと細かく刻んだ塩漬けのデジ肉を炒めたものをのせ、チーズをかけて石窯でゆっくりと焼いた。食欲をそそるニンニクとチーズの焼ける香りが食卓に広がる。


「これはとっても美味しいわ。ナスってこんなに甘かったかしら。」


よかった。ゆっくり油を使って焼いたナスは甘くて美味しいんだよね。少しでも野菜に対する苦手意識が減ってくれるといいな。

ルキウス少年もこちらは先程よりも美味しそうに手をつけている。



さてと次は自信作のこの世界風だし巻き卵だ。

新鮮な卵に魚の骨からとった濃いめの出汁と塩と蜜を加え、丁寧に焼き上げる。

わたしの家族にも大好評の一品だ。

このお屋敷では砂糖や蜜が自由に使えるから、甘めの贅沢な箸休めだ。


「美しい料理ね。何層にも重なっていてとても美しくてなんだか可愛らしいわ。」


卵を焼いてクルクルと巻いていく調理法はこの世界でも珍しいらしく、調理場の料理人さん達も、面白がっていた。



「んー。なんて不思議な食感なのかしら。ふんわりお魚の香りもして美味だわっ。ねえ、ルキウス?」


「はい、お母様。この料理、ぼくも好きです。美味しくて優しい味ですね。」



やった!ルキウス少年が笑顔になった!

ふくふくしたほっぺがかわいい。

三切れずつ並べただし巻きを2人は完食してくれた。

ーー嬉しい、嬉しい。




「では、メインのお肉料理の準備をいたします。」


給仕のみなさんがささっと動き始める。

実は前回お屋敷に来たときに、気になっていたお茶のポットの下の石板のようなもの。

料理人さんたちにたずねたら、小さな魔力で熱を生み、その熱を長時間保つことのできる魔石でできていて、お茶をいれるためのお湯を保温するためのものらしい。


便利な貴族の道具は、我が家ではできないお鍋向きだ。



2人の前に一人分の小さな鉄鍋に入った出汁と、薄くスライスした生のデジ肉が並ぶ。


「まあ。こちらは生のお肉ですの?」


「はい、給仕のものがお肉に火を通しますので、温かいうちにソースにつけてお召し上がりください。」


「変わった食べ方ねぇ。」


ソースはすりおろした玉ねぎとカブを塩であえて柑橘の搾り汁をくわえた、さっぱりおろしのしゃぶしゃぶだ。


「お好みで出汁に入っている、きのこも一緒におたのしみください。」


「いただきますわ。」


給仕がトングのようなものを駆使して、しゃぶしゃぶしてくれたお肉をお皿に盛り、ソースをかけて提供する。


「デジのお肉ってこんなに食べやすくできるものなのね。全然パサパサしないわ。」


「はい。でもこのソースはぼくには少し辛いです。」


そうか、ソース自体が薬味のようなものなので苦手かもしれない。




「よろしければ、若さまはお塩をつけてお召し上がりください。」




わたしの存在を忘れて話していたのか、ルキウス少年はわたしが話すとビクッとした。一瞬目線が合った気がしたけど、さっと晒される。



「ルキウスさま、お塩をお持ちいたしました。」



なんとも言えない雰囲気の食卓に、ランスさんの神の声がやさしく囁かれた。



「ありがと、じい。」


口元をきゅっとして少年は、食事を再開するためカトラリーを持った。

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