第17話 健康食といったら
健康食と言ったら日本食。これ常識です。
ってくらい日本食は優秀な食文化だ。
いきなり生野菜だらけのヘルシー食にきりかえるよりも、まずはバランスのよい食事に慣れてもらおうと思って最初に思い浮かんだのは日本の学校給食や定食だった。
肉や魚、野菜や副菜、白いご飯にお味噌。
この世界には無い調味料ばかりで再現は難しいけれど、目指すはこのバランス感。
✳︎
「ご機嫌よう。イリちゃん。今日からよろしくね。」
「こんにちわ、奥さま。若さま。」
早速昼食の食卓についたお2人。わたしは執事のランスさんの隣に立って一歩前にでる。
「本日の昼食の一品目はトマトのスープです。トマトをおろしたジュースに玉ねぎのスープを煮詰めたものを混ぜ、油分を加え、我が家で採れた香草を少し加えています。」
「トマトは生のものなのかしら?」
「はい、生のまますりおろしたものです。」
トマトは栄養の宝庫だ。
すりおろせば吸収にも良いし、女性の好みそうな味に仕上がった。ちなみに、毒味チェックも完了済みだ。
「ん、さっぱりしていてね。」
「はい。本当は冷たく冷やしていただいた方が癖がなく飲みやすいと思うのですが。」
この世界には冷蔵庫なんてない。
食材は地下の冷暗所で保管されていて、暑い気候のこの地域では冷たいものを食べられることはすごく稀だった。
ーー本来は、トマトの冷製スープとして出したかったなあ。
この私の言葉に、トマトのスープを嫌そうに黙って口に運び、食事をする母親をチラッとみながら、頑張って食べていた少年がぴくっと反応する。
「ルキウス、あなたの出番ではなくて?」
「は、母上、でも。でも。」
「あら、あなたはきちんと魔力を制御できるようになったのだから、心配はないでしょ?」
「…はい。」
長めの前髪のせいで表情は見えないが、真っ赤に頬を染めて、母親とこちらをおどおど見ながら、ルキウス少年は小さくなる。
まだ青年よりは小さな手を自分のスープの上にかざす。空気が僅かに緊張するような気配がしてすっと消える。
「ほら、きちんとできたわ。」
スープの器に触れながらにっこり奥様が言う。
「わたくしのものもお願いね?」
こちらをチラチラうかがう少年は、言われたように奥様のスープにも手をかざす。
一連の会話と、動き、もしかしてこれって。
ーー魔力、魔法だ!
驚愕。
まさに、そんな感じだ。
この世界の貴族は魔力を使うことができることは知識として知っていたけど!
理解を超える現象に、固まり、すこしの恐怖と胸の騒めきを覚える。
「ん、本当だわ。ひんやりして、さらに飲みやすくなったみたい。ルキウスのおかげでしてね。」
「ありがとうございます、母上。」
ルキウス少年も一口、冷製スープを口に含む。
✳︎
わあ、わお! 今の魔法だよね?
冷製スープになっちゃったんだよね?
驚き喜色じみた顔つきの私に気づいたランスさんは少し微笑みながら教えてくれた。
「ルキウス様も奥様も氷属性を含め複数の属性の魔力をお使いになられます。魔法を見たのは初めてですか?」
「はい!すごいですねっ!」
爛々という言葉が似合う私のリアクションに、ルキウス少年は頭を上げ、ポカンと口を開けた。
ルビー色の瞳がこぼれそうなほど、こちらを見ていた。
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