第16話 初仕事は慎重に

ーーまずい、まずい、まずい!

貴族とは関わっちゃいけないって言われていたのにー!!



一方のイリは、夫人との約束を後悔していた。

ただの平民が貴族からのお願いごとを断れるわけもない。命令ではなく、お願いにしてくれた夫人はきっと貴族の中でも温厚で優しい方なんだろう。



うーうーと唸りながら、家に帰ったわたしは内緒にしていた一連の話を母に白状した。



「あら、お給金がいただけるの?」



雷が落ちると思っていたわたしは、母の第一声に驚く。

母よ、どこまでお金に困っているんだこの家は。。。。


なんでも父は、ラモン家の奥様や執事と仕事の際に面識があり、高位の貴族でありながらも、平民の意見も聞き入れ、配慮してくれる立派なご婦人だったと、母に話したことがあったそうだ。



「あの人の人をみる目は確かだわ、イリ、出会ったお貴族様が、その方で命拾いしたわね。」



言い回しからして、少しは怒っているらしい母だけれど、報酬(お給金)が入るとの言葉にはキュッと口元に力が入る。



「イリ、しっかりとおやりなさい、信じているわ。絶対に失礼があってはいけないのよ? そうね、本当にお給金がもらえたらあなたが欲しいと言っていた苗木を買ってもいいわ。」



「ほんとー!?」



「ええ、イリの初めてのオシゴトですもの、しっかりやり遂げるのよ?」



「わあ、はーい!」



ーーわあ、苗木だ! くだものー!甘味ー!絶対成功させるんだ!








さて、明日のお昼にさっそく行かなければいけないけれど、何をどうお手伝いすればいいのかな??


この世界には、生野菜を食べる習慣がないから、いきなり新鮮野菜を出すのも厳しいな。

奥様は食事そのものが、甘味が主体で好き嫌いが多そうだったし、隣で食べていた少年も似たようなものだったし。

そもそも、貴族の調理場にどんな食材があるんだろう。

まずは在庫調査が必要だ。




翌朝、イリは正面の入口をさけて使用人の勝手口と思われる方に向かっていき、調理場を訪ねた。



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