第13話 side ルキウス•ラモン 01


イリ。

氏を持たない彼女の響きの良い名。


幼い頃に出会い、私と母を救ってくれた

「私を生かす者」。




イリは変わった女だ。

友達と群れず、権力や財産といったものに興味を示さない。そもそも考え方や行動が一般的な女性とは違うような気がする。

だか、なぜその考えなのかと問うと明瞭で筋立てされた答えが返ってくるし、今では半ば諦めたように、貴族の私に対しても臆することなく意見を述べる。


やや諦め加減に紡ぐ姿が憎らしくもあるのだが、身分に忖度せず素直に受け答えをするところが好ましく、信頼をおけると感じる。

そんな女だ。







イリは、我がラモン家の別宅の隣に立つ、小さな家に暮らす平民の少女だった。


体の弱かった母の療養の為、私と母が別宅で暮らしていた頃、母が路先で呼吸を乱し倒れた時、イリが助けてくれた。


その後、彼女は母を心配し執事のもとへ容体をたずねにきていた。


少し体調が回復した母と私も、あの時の少女に直接お礼をと再び屋敷で顔を合わせた。


何かお礼をという母に、イリの願いは・・・実に変わっていた。




「わたし、貴族のご飯が食べてみたいです。」




通常、貴族と平民が共に食事をすることはあり得ない。

しかし、我が母はその子供らしいお願いに「そのような可愛いオネガイゴトは、なんとしても叶えなくてはいけませんね。」と快諾した。




こうしてイリと私と母の初めての食卓が時を刻み始める。


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