第12話 ゴチソウサマ
どのお客さまにも、最後に提供するのは一杯の白湯だ。
お酒を飲んだほろ酔いさんも、頑張って野菜を食べ切った小さなお客さまにも。
すっとカラダをととのえる、潤滑剤になってくれますように。
「僕、イリさんの食後の白湯が、なんでか癖になっちゃいましたよ。」
男の対岸のカウンター席で今日最後のお客さま、常連さんのアレイくんが笑う。
アレイくんはギルドで働くわたしの父の部下で、とても背が高くて利発な雰囲気の青年だ。
「ふふ、わたしの愛がこもってるもの。」
「おっと、それは嬉しいなあ。今夜はこれから遅番なので、明日はお昼ごはんをいただきに来ます。」
「はい、お待ちしてますね。」
お代をいただいて、お見送りをすると、店に残るはルキウス•ラモン1人になった。
✳︎
食後にまた葡萄酒を飲んでいた男に、白湯を一杯提供する。
「今夜も満足いただけましたか?」
「ああ、ゴチソウサマ。」
「ふふ、オソマツサマ。」
出会ったばかりの頃、ついつい食事が終わる度口に出してしまった異国言葉、“ご馳走様”をこの男は覚えてしまった。
きっと意味はわかってないのだろうけど。。
すっっと、男の纏う空気が、変わった気がした。
ーーさあ、もうお別れの時間ね。
穏やかな無表情から、今度は少し眉間に皺を寄せながら男が白湯を飲む。
わたしは、沸かしておいたお湯を男が持参した魔法瓶に注ぐ。
「はい、明日用の白湯。」
「ん。」
お代をいただき、魔法瓶を手渡す。
男は明日のための白湯を持って帰ってゆく。
ーー会えるのは、また明後日かな。
「おやすみなさい。お仕事気をつけてね。」
「おやすみ、良い夢を。」
テノールの優しい声だった。
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