第10話 その優しさは日々を彩る


ゆったりと食べ進める男の様子を横目に見ながら、次の品に取り掛かる。



偏食さんで野菜嫌いだった男にはちょっとハードルが高い一品といえるのかもしれないが、当店は栄養重視、健康は食からがウリである。



本日の3品目は、ゴーヤの甘酢かき揚げ。



半月形にスライスして水分を丁寧に拭き取った甘酢漬けゴーヤに、小麦粉と卵、男が作ってくれた氷と水を加えた衣を纏わせる。


熱した油に、ーぽとんーと衣を一滴落とせば、ゆっくりと音を立てて浮かんでくる。



ーーよし、いい頃合い。



よくこの世界の人々には、自作のお箸を使いこなす姿を奇妙そうに見られるけれど、目の前の男は見慣れているし、気にしないわよね。





「天ぷらは、お箸で揚げるのが趣ってものよ。」





ついつい独り言を言いながら、かき揚げを揚げる。






「・・・そうさね。」





数秒の間をおいて、目の前の男から独り言への返事が返ってくる。




この男は、わたしの全てを知っているわけではないのだけれど。。。

こんなときの優しさが、わたしの心を揺らす。





「そうよね。」





ルビーの瞳と目線を合わせ微笑む。




からりと揚がったゴーヤを二つ、男のお皿へそっと移した。

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