第5話 そんなことは大事なコトじゃない
あまりに鮮烈なその赤に、一瞬息を飲む。
こんな色は初めてだ。
全ての感情を強烈に印象づける赤。
「ひーひーつ、ひーっ」
「お母様!大丈夫?」
一瞬、刻が止まったわたしを、女性の異質な息遣いが現実に引き戻す。
ーーえ、これ、過呼吸?
「じいっ! どこいったの? じいーー。」
丸々とした少年は、パニックになって泣き出した。
ーー驚いている場合じゃないよね!
「おねえさん、大丈夫だよ!息を整えて、ゆっくり。そう、ゆっくり息を吐くの。」
女性にかけよって背中をさすりながら、手を
握り、ゆっくり声をかける。
「大丈夫、ゆっくり、ゆーっくり。」
鮮烈な赤から涙を流しながらも、女性はゆっくり呼吸をしはじめた。
瞳から恐れが鎮まってゆく。
--あ、ルビー色に戻った!
安心が広がった?のかな。
母親の感情が伝わったのか、少年も母に抱きつき安堵の涙を流し始めた。
ーー鎮まっていくーーー。
「あ、ありがとう。」
ちいさな声だった、細くて小さな声。
女性の体が硬直から解かれてゆく。
「奥様!」
「じいっー!」
執事が大人の男性を連れて戻ってきたようだ。
--よかった。
--ん?おねえさん眠っちゃった?
ふと、
不可解そうにこちらを見つめる執事にわたしはハッとする。
--まずい、貴族だ。
関わってはいけない、父さんがそう言ってたのに!
馬車を使うのは貴族だけだって。
ーー逃げなきゃ!!
立ちあがろうとしたわたしの手を、無常にも握ったまま眠りに落ちたおねえさんは離してくれなかった。
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