第4話 少年は赤くて丸い
日本の四季から春と秋がすっぽりなくなってしまったようなこの世界。
視界がぼやけるような暑さの日中が過ぎて、ようやく陽が陰る時間帯。
強い日差しに耐えた野菜たちの束の間の水分補給。
土からも野菜からも、ごくごくと飲み下す音が聞こえそうなくらい、みるみる水を吸っていく。
わたしは、萎れかけていた葉や茎に命の水が巡っていく、この瞬間を見るのが好きだ。
今日も元気に育ってくれてありがとう。
そんなことを思いながら、野菜たちを観察する。
ーー今季の収穫は多そうだな。
✳︎
「お母様!」
そんな至福の時間を過ごしていたいたとき、馬車路の方から、幼い声が悲しく響く。
1人で家の外に出ることは禁止されていたけど、気になって壁の隙間から馬車路をのぞいてみる。
体調が悪そうに膝をつく細いドレスの女性と、「お母様!」と言いながら女性に寄り添う丸々とした少年の姿があった。
老齢の執事であろう人物は助けを探してか、駆け出していった。
顔色の悪いその横顔に、晩年よく貧血を起こしていた、婆ちゃんを思い出す。
とっさに足が動いた。
「大丈夫ですか?」
苦しそうに、不安そうに、こちらを見上げた2対の瞳。
その瞳は、ルビー色。
いやその瞳はだんだんと、それはそれは鮮烈な赤へと変わっていった。
それはそれは、鮮烈な赤に。
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