第2話 私がわたしになった時

この店の店主である「わたし」には、12歳までの記憶がない。


目が覚めたら、父と母という存在がそこにいて、3歳年下の弟という子がいた。

わたしは「イリ」と呼ばれ、父はダン、母はリオラ、弟はルイといった。



“以前の私”は、両親と疎遠な家庭で育った一人っ子、少し人嫌いな30歳のOLだった。

唯一可愛がってくれた婆ちゃんの元で幼少期を過ごし、喧嘩をしながらも楽しく暮らしていたあの頃は私の大事な思い出だ。


今から13年前、自分自身に何が起こったかは、未だに自分でもわからない。


当時は突然12歳になった自分という現実を受け入れられず、優しい両親や弟にも上手く接することができないまま、呆然と日々を過ごしていた。




––そんな日々の中でも、この男との出会いは強烈だったな。




目の前で葡萄酒をこくりと口にする男を眺めて、ふと蘇る。

共通点なんて皆無のわたしたちの出会いが。

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