第20話
頬が痛い。
「紬! 大丈夫⁈」
結衣が心配そうな顔で私を見つめている。
「頬が痛いけど大丈夫」
私は態とらしく左頬を押さえながら結衣に返答する。
身体を揺する事をすっ飛ばして張り手を一番目の行動に選んだのは何故だ。
「紬ちゃん。キャリーケースは見当たらないけど本当に此処なの?」
結衣のお母さんが不法投棄の山を眺めているがキャリーケースをまだ見つけられていないようだ。
キャリーケースについてはアカリちゃんの記憶も曖昧だ。
ここから投げられて歪んでしまったキャリーケースは最後は何処に行ったのだろう。
「紬! アレじゃない?」
結衣が指差した先には不法投棄の山の中に紛れ込む歪んだキャリーケースがあった。
アレだ。
間違いない。
「アレだ! 叔母さんやっぱりここで間違いないみたいです」
私が結衣のお母さんに確証が取れた事を伝えていると結衣がガードレールを乗り越えようとしていた。
「結衣! 不用意に何かを触らない! 気になる事は報告! 足跡は踏まない!」
「了解!」
ガードレールを乗り越えようとしていた結衣に結衣のお母さんが注意事項を手短に伝えていた。
ガードレールが意外と高く乗り越えられない私はガードレールの切れ目を探していると結衣が私の両脇を抱えた。
まさか……。
私の身体は何かに持ち上げられる様にガードレールを乗り越えて舗装されていない地面に下ろされた。
きっと私は空を飛んだのだろう……。
後ろを振り返ると結衣のお母さんがガードレールを乗り越えながら誰かと通話しているが恐らく結衣のお父さんだろう。
「ゴミの向こうに進んだんだったよね? とりあえずそこまでは足元気をつけながら進もうか」
「埋められた場所からゴミの山が見えていたからそこまで遠くないと思うんだよね」
足元がないか確かめながら進もうとしたが舗装されていない地面には足跡はない。
油断は禁物なのだろうが時間が証拠を消してしまった様だ。
ゴミの山にたどり着き手を掛けて登ろうとした結衣を結衣のお母さんが肩を捕まえて静止させた。
通話を終えるまで此処で待機するのだろうか?
「あー指紋あるかもしれないからか。紬、迂回路探そう」
「あっそういう事か! えーっとあっちから行こうか?」
不法投棄の山を迂回して木々が立ち並ぶ斜面を眺めるが何処も似た様な景色でアカリちゃんが埋められた正確な場所がわからない。
結衣のお母さんが私に視線を向けた。
「紬ちゃん。ざっくりとあの辺でいいからわかるかな?」
「えーっと……」
返答に困っていると私の左腕が私の意志とは無関係に持ち上がり木々が立ち並ぶ景色を指差した。
『アッチ』
耳元で女の子が囁く声が聞こえる。
アカリちゃんも早く見つけて欲しいから協力してくれているのだろうか?
「あっちらしいです」
「……わかったわ。急ぎましょう」
私の返答に結衣のお母さんの顔が険しくなるが問いただす事はせず私の問題の解決を優先してくれた様だ。
右手に温もりを感じて驚き確認すると結衣が私の手を握っていた。
大丈夫だよ。
もう少しで解決するから。
木々が立ち並ぶ斜面に苦戦しながら進み場所を確認する為に立ち止まると私の指が特定の場所を指し示し『アッチ』と耳元で囁かれる。
そして私達はそこに辿り着いた。
葉っぱで隠蔽されていて素人目には此処に何かが埋まっている事はわからないが私の指は地面を指差し『ココ』と耳元で女の子の囁き声が聞こえた。
「紬ちゃん此処であってる?」
「ここです」
アカリちゃん見つけたよ?
これで私を解放してくれるよね?
気を抜いたせいでだんだんと瞼が重くなる。
結衣の手が温かくて気持ちがいい。
もう大丈夫だよね?
私は意識を手放した。
◆
気がつくと私は人工芝が張られている校庭を窓際に立ち眺めていた。
カチカチと秒針が進む音やカタカタと時々通り過ぎる風が教室の窓を揺らす音が聞こえてくる。
まるで火曜日の夢の様だ。
私はいきなり右手を引っ張られ倒れない様に慌てて踏ん張る。
私が何かを握っている右手が冷たくて確認する事に躊躇いがあったが私を引っ張る人物を確認した。
アカリちゃんだ。
『ミツケタ ノニ ドウシテ⁈』
アカリちゃんは何かを焦っていた。
希望通りにアカリちゃんは見つけたのだから早く成仏して欲しい。
少なくとも私から出て行ってくれないだろうか?
「貴方の願い事は叶えたからもういいでしょ⁈」
アカリちゃんは私の声に驚いたが徐々に怒った表情に変わっていく。
『ジャア ワタシ ヲ ハナシテヨ!』
アカリちゃんが私の右手を振り解こうと暴れながら強い口調で私を拒絶する。
ハナシテと叫んではいるが私の腕もつられて暴れている。
『ヨンダ ノハ アナタ デショ!』
いつまでも振り解けない私の右手を掲げて私を睨みつけながらアカリちゃんは話をしている。
掲げられた私の右手はアカリちゃんの左手首を握っている。
アカリちゃんは今にも泣きそうな顔に変わっていく。
『ネガイゴト ヲ シタ コトハ アヤマルカラ……デモ ワタシ ハ モウ ネムリタイノ!』
私は突然の出来事に思考停止していたらしい。我に返った私は慌てて握っていたアカリちゃんの左手首を離した。
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