第14話

「という感じかな……」


 結衣と父親に夢での出来事を思い出しながら話した。


「不法投棄されている山道で紬が見ていたキャリーケースを見つけるのが一番の近道だよね。ただ闇雲に探しても時間はかかるだろうね」


「アカリちゃんは戻り道でキャリーケースを確認してないから持って帰られてなければいいんだけど……」


 キャリーケースが決定的な証拠となると考えていなければそのまま捨て置かれているだろうが自分に繋がる物をそのままにしておくのだろうか?


 悪い方に思考が曲がっていく。


 ただ楽観的に考える余裕は私にはない。


 いつ私が私でなくなるか不安と恐怖が私の心を締め上げる。


 私の悲観的な言葉で静まり返った雰囲気を壊すかのように結衣の情報端末が着信音を鳴らした。


「お母さんから返事が返ってきた……。証拠として薄過ぎるから捜索隊は多分動かせないって。ただ事情を聞きに朝ココに立ち寄るからそれまで頑張ってって」


 私の夢での出来事を根拠として捜索隊が動いてくれたならあっという間に解決できるだろうが私の夢が間違いではないと私自身ですら証明ができない。


 瞼が重く思考が鈍り悲観的な事ばかり頭に浮かんでくる。


「地図アプリで場所を特定できないかな?」


「んー。根気強く探せばできるだろうけど……。そうだね探してみようか」


「今の間は何? 気になるじゃん」


「不法投棄されている山道なら警察に情報ぐらいあるだろうからお母さん来てからでもいいのかなと思ったんだけど……」


「そう……だね」


「ただ紬の眠気覚ましに丁度良さそうだからやってみようって思ったのよ。夢中になって探せば朝まで時間を潰せるかも」


「見つかる事は想定してないのね……」


「地図アプリじゃ何処が山か分からなくない? 殆ど感で探すのと変わらないでしょ」


 父親が暫く黙っていたので気になって目線を向けるとリビングのソファに座ったまま目を閉じていた。


 暫く二人で見ていたが完璧に寝ている。


 少しだけ苛立ちを覚えたが仕事から帰って来た後に心霊体験の話を聞かされ今まで起き続けていたのだから仕方がない事だ。


「お父さん。ココで寝たら風邪引くよ? ベッドで寝て来ていいから」


 話し掛けながら軽く揺らすと父親の身体は驚きのあまり少しだけ跳ね上がり再起動した。


 目を覚ました父親は申し訳なさそうな顔で私を見ながら謝罪の言葉を口にする。


「ごめんね。紬は眠れないのにね」


「叔父さん大丈夫ですよ。私がいますから。朝になってから紬の見張りを代りましょう」


「そうさせてもらうよ。何かあれば結衣ちゃんも遠慮なく起こしてくれていいからね」


「わかりました。緊急時には叩いて起こしますね」


「おやすみ紬」


「そんなに心配しなくても朝までは大丈夫だよ。だからおやすみなさいお父さん」



「慣れてないから眠たいね」


 父親が眠ってから暫く地図アプリと睨めっこを続けていたのだが夜の静寂に瞼が重くなってきたのでコーヒーを飲みながら結衣と一休みすることにした。


 コーヒーの香ばしい香りがリビングに広がっていく。


「紬は普段徹夜とかしないの?」


 砂糖と牛乳をたっぷり入れたコーヒーを飲む結衣は眠りそうな私を心配しながら疑問に思った事を私に質問してきた。


 私と違い結衣の表情に眠気を感じない。まだまだ余裕がありそうだ。


「組み上げたライフサイクルの中で行動してるから予定外の事が起こらない限り徹夜はしないかな? 結衣は慣れてそうだね?」


 砂糖も牛乳も入れずにブラックのまま飲む私は結衣の疑問に答えつつ批難の意味を込めて結衣に質問を返した。


「徹夜でゲームもいいものだよ。この前の中間考査だって一夜漬けだったしね」


「眠たいと頭回らないから私には一夜漬けは無理かな。そんなに簡単に暗記もできないしね」


 徹夜で覚えられる人達はそれはそれで才能だと思う。一時的であっても莫大な情報を記憶に定着させ試験を突破してしまうのだから。


 私が真似をしようとしても私の怠け癖のある頭は仕事を放棄して活動しなくなるだけだろう。


「家事しながら勉強して点数が取れる方が奇跡だと思うよ。絶対に私には無理だね」


「みんな社会人になったらこんな感じになるんじゃないの? 特に一人暮らしの人は」


 仕事と家事をこなしながら私の面倒まで見ていた父親をずっと見てきたので何かをしようとすれば時間を無理矢理捻出させなければならない事を経験として知っている。


 社会人になって何かをしようとすれば誰もが私のながら勉強の様な時間の使い方をし始めるのだろう。


「誰もが生涯現役で勉強する訳じゃないよ。紬みたいにできる人だけが頑張るんじゃない?」


「いや勉強だけじゃなくて趣味だってまとまった時間が確保できないなら何か作業をしながらするでしょ? ずっと寝ないなんて無理なんだから……」


「そうだね……。安心して寝られるように早くアカリちゃんの居場所を見つけよう……」


 ダメだ。眠たくて悲観的になっている。


 ただコーヒーのおかげで瞼の重さは和らいだ。さてそろそろ一休みを終えて地図アプリとの睨めっこを再開しよう。


 グラりと眠気で意識が大きく揺らぎすぐに立て直したのだがその一瞬の間に耳元で女の子の声が聞こえた。


『ハヤク ワタシ ヲ ミツケナイト』と。

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