第11話
結衣のお母さんが私達の前で頭を抱えている。
というのも私は結衣のお母さんに金縛りの事も含めてこれまでの出来事を包み隠さず話したからだ。
リビングに置かれた机で向かい合った私達の間に僅かな時間だが沈黙に包まれる。
生活安全課の方はというと行方不明の捜索から抜け出す事ができず結衣のお母さんが代理として聞き出す事にしたらしい。
もし有力な情報なら改めて明日話をするという予定だったとも聞いたがこの状況は私にとっては好都合だった。
見ず知らずの人に金縛りの心霊体験を話さずに済んだのだから。
「とりあえず紬ちゃんが危ない状況で結衣が思いつきで行動を起こした事は理解したわ……。それは置いといて紬ちゃんの為にも早くアカリちゃんを見つけ出したいという気持ちも理解できるわね。ただ捜索隊はアカリちゃんの母親の情報を元に家出をした少女を探しているから、もし貴方達の言っている事が本当なら見つかるまでだいぶ時間がかかるわね……」
「お母さん、なんとかならないの?」
頭を抱えていた結衣のお母さんが思考を整理する為か言葉に出して情報を確認していたが結衣が割り込んで助けを求める。
アカリちゃんの居場所に繋がっている情報が何もない事は結衣のお母さんに全てを話した時に痛感していた。
これで結衣のお母さんに信用して貰えるのかどうか不安しかない。
「場所が特定できれば少人数で抜け出して探す事はできるけど……。現時点でできる事は少ないわね」
「アカリちゃんの母親から事情を聞く訳には……?」
今私が持っている唯一の手掛かりは母親がアカリちゃんを殺したかもしれない事だ。
あの金縛りでの出来事が真実であるならば母親がアカリちゃんの居場所の情報を知らない訳がない。
ただ確証はない。
「証拠も何もない今は警察は動けないわ。どんなに怪しくても具体的で客観的な証拠がないと……ね?」
「そう……ですよね……」
女子高生の金縛りでの出来事ではアカリちゃんをどこに隠したのかと問い詰め様がない。
アカリちゃんの母親は月曜日に行方不明になった事を黙っていた事を水曜日までずっと黙っていたのだから問い詰めても証拠がなければ言い逃れされそうだ。
完全な手詰まりだ。
「貴方達が変な好奇心からこんな事をするなんて私は思ってはいないけど……」
俯いた私を見た結衣は結衣のお母さんに何かを言おうとするが言葉にならず再び沈黙が訪れる。
何か言わなければと思っていたが結衣のお母さんが口を開く。
「それに金縛りじゃないかもしれないしね」
「えっ?」
「首を絞められた時には動けたんでしょう? 金縛りじゃなくて最初と同じで夢だったんじゃないの? 現実味がありすぎて金縛りと勘違いしてない?」
「全部夢……だった?」
「土に押しつぶされて動けない夢。寝ている時に首を絞められた夢。そう考えた方が自然だと思うの」
「お母さん!」
私はそう思われても仕方ないと感じたが結衣が結衣のお母さんを抗議の意味を込めて遮る。
嘘は言っていないつもりだが荒唐無稽な話をしている自覚はある。
これ以上結衣のお母さんに頼る事ができないかもしれないと思うと心細い。
「二人共勘違いしない。私は貴方達が嘘をついているとは言ってないよ。ただ金縛りじゃなくて動けない夢だったんじゃないのってだけの話。金縛りだったなら外から見れば状況がわかって助けられそうだけど……夢の中だとどうしようもないわね」
嘘だと思われていない事に安堵したが確かに夢であれば周りの人間に助けを求める事がより難しそうだと感じた。
結衣のお母さんは一呼吸置いてまた話し始める。
「結衣。今日は紬ちゃんの家に泊まりなさい。何かあったら連絡する事」
「ん? なんで私が紬の家に泊まるの? 嫌ではないけどいきなりじゃない?」
「紬ちゃんが寝ている間は結衣が見張って息してないとか変な行動をしている紬ちゃんを貴方が守りなさい。私は署に戻って何かできないか考えてくるから」
「……ありがとうございます」
「お礼は最後に纏めて聞くわ紬ちゃん。今は自分の事だけ考えときなさいね?」
結衣が私の家に泊まる準備をする間に私は父親にこれまでの事を説明しなければならないだろう事を思い出した。
「父さんに何て説明しよう……」
「そのまま説明して大丈夫だと思うわよ? 紬ちゃんのお父さんなら突然変な事言い出したなんて思わないだろうし」
結衣のお母さんに私のつぶやきを聞かれてしまったらしい。
嘘だとは言われないだろうが高校生になって怖い夢の話を父親にするとは思っていなかった私へのダメージが大きい。
「お祓いグッズとか山程買って来そうで別の意味で怖いですね……」
「ありえそうね……。私が動いているとわかれば少しは落ち着きそうだけど……」
「そういえば父さんは叔母さん達が警察官だった事知っているんですか?」
結衣の母親は私の父親の友人の一人であり私が幼少期には滞る家事を手伝いに来て貰っていた記憶がある。
私の父親が結衣のお母さんが何をしているか知らない訳が無い。
「知ってるわよ。紬ちゃんに黙ってたのは結衣が両親が警察官だと友達に知られたくなかったからよ。警察官の子供として見られるのが嫌だったみたいでね」
「お母さん!」
準備を終えて結衣の部屋から出てきた人物が結衣のお母さんを糾弾している。自分にもあったかもしれない母親と娘の光景が少しだけ羨ましかった。
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