第10話
「さて行こうか紬」
下校時刻。私達は現在行方不明のアカリちゃんの母親に会う計画を昼休みに話し合いそれを実行する為に行動を開始した。
「大丈夫かな?」
警察に行って行方不明になった翌日の火曜日にアカリちゃんと出会った事を告げる。
アカリちゃん本人か確証が何もないから他に写真か何かあれば見せて貰えないか尋ねる。
「だからと言って紬が昼休みに言ってたみたいにアカリちゃんの母親に直接会うのは危ないよ? もし金縛りでの出来事が本当だったとしたら何されるかわからないんだからね?」
アカリちゃんの母親が昨夜の金縛りで出会った女性か確認できたら私達が見つけ出す対象が確定して探し易くなると提案したが、相手は人を殺して何食わぬ顔で生活している人間で危険であると結衣に却下された。
確かにそうだが私も切羽詰まっていると訴えると結衣は警察に頼る事を提案してきた。
アカリちゃんが行方不明になった翌日の火曜日の昼に出会った事を告げ本人か確証がないから他の写真を見せて貰えないかと警察に言う。それが私達が昼休みに計画した事である。
警察署に他の写真があれば私の記憶に残るあの女の子であるか確認できるし、もし無ければ母親の所に警察の人を連れて行く口実ができる。
「まあ穴だらけの計画だからね。不安になるのも当然だけど懸賞金目的の情報提供じゃないし無下に扱われる事は無いと思うよ?」
警察に行って真実であると胸を張って言えない事を話す事に強い抵抗感があるが私達が現時点で行える唯一の方法だ。
他に方法があるのかの知れないがこれ以外思いつかない。
「そうだといいね」
まだ警察署に辿り着いてもいないのに緊張してきた。
どんな風に警察の人と話せばいいんだろうか?
「もし途中で駄目になったなら違ったのかな? で逃げてもいいし夢でも金縛りでも会った事には代わりがないって開き直ってもいいかもね?」
「さすがに開き直ったら不味い気がするよ」
「いやそんなに悪くないと思うよ? 場所を見つけても私達だけで掘り返せないし捜索隊に紛れ込むのも今のままだと難しいからね。紬が霊感少女と思って貰えたならラッキーだよ」
「さすがに変な奴が来たで終わる気がするよ……」
「それでも見つけたいって意思を形に残しておくと後々楽になると信じよう……。それに変な奴じゃない、変な奴らが来ただよ紬」
ドヤ顔で私を見る結衣に私は自然と笑顔を浮かべていた。
私の顔に笑顔が出たのはいつ以来だ?
少し遠くに感じる。
少なくともあの女の子と出会った後には笑える余裕は無くなっていた。
耐えきれず私の口から笑い声が溢れ恐怖と緊張が私の身体から抜けていく。
「紬の笑顔、久しぶりに見たかも。解決していっぱい笑える日常をなるべく早く取り戻そうね?」
私の顔を見て微笑む結衣を見てまた声を出して笑いそれと合わせて恐怖に立ち向かう勇気が湧いてくる。
「うん。あーお腹いたい」
◆
結衣が警察署の場所を調べたと言っていたので歩いてついて来たのだが辿り着いた場所は結衣の自宅である。
「まあ上がって紬」
「お邪魔します……」
「まだ帰って来てないのか……昼休みの後に連絡しといたのに……私の部屋で一緒に待ってようか」
「誰を待つの?」
私の顔には疑問という大きな文字が貼り付けられているのだろう。
警察署に向かう前に立ち寄ったのなら話はわかるが誰を待つのだろうか?
「あーいいからいいから。お茶持ってくるね?」
結衣に背中を押され結衣の部屋に押し込められる。
私の自室とは違いぬいぐるみが沢山置かれた何事もかっこいい結衣から想像し難い女の子の部屋である。
ローテーブルの側に座って鞄を邪魔にならない様に私の隣に引っ付ける様に置く。
しばらくしてお茶を持った結衣が扉を開けて現れる。
「まあそんな顔になるよね」
「いや警察署に行くって言っておいて結衣の部屋に通されてお茶まで出されたら疑問しか浮かばないのは当然じゃない?」
「まあ今まで言ってなかったし当然といえば当然なんだけどね?」
「まさか結衣の自宅が警察署な訳ではないんでしょ?」
「私の両親。二人とも警察官なのよ」
「そうなんだ。気が楽になったよ。結衣の両親になら金縛りの事言って大丈夫かな?」
「いや期待させたならごめん。私の両親は生活安全課じゃないから行方不明の情報は何も持って無くてさ。だから今から私の両親に相談するって訳じゃないのよ」
「それってどういう……」
「生活安全課の人を連れて来るらしい。本当はダメらしいんだけど特異行方不明者を探す為の情報だから無理してくれたみたい」
「そうなんだ。気を緩めた分なんか急に緊張してきたよ……」
結衣の両親なら緊張せずに話せただろうが違う人だと思うと再び緊張してきた。
こんな荒唐無稽な話を聞いてくれるだろうか?
「まあ警察署で話するより大分マシでしょ? 受付で待たされて生活安全課に通されて大人に囲まれた状況で怖い夢の話をするよりはさ」
「怖い夢の話は不味いよね? 言わない方がいいかな?」
「んー話すかどうかは紬に任せるよ? ただ最後まで私は紬の味方だし掘り返す事になったら何が何でも私の両親を説得するつもりだから紬は紬が思う通りにやっていいよ」
結衣の信頼が想像以上に厚くて泣きそうだ。
生活安全課の方が来るまでに結衣と相談しながら情報をもう一度整理して置こう。
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