第7話

 昼休み。


 私達は教室を抜け出し二人きりになれる中庭で昼食を広げていた。


 既に素っ頓狂な悲鳴と突然泣き出した事で生暖かい視線を感じる教室でこんな話をしていたら間違いなくイタイ子認定されるだろう。


 まだ手前で止まっていると信じている私のささやかな抵抗である。


「あんまり情報がないんだよね……」


 現在わかっている情報を結衣に伝え終わり二人で解決策を検討しているのだが、見つける為の情報は私の曖昧な記憶だけ。


 それに昨夜の金縛りでは声だけしか聴けていない為にあの女の子であるとは限らない。


「生きるか死んでるか以前にそもそも存在しているかすらわからないからね……」


 結衣の言う通り、あの女の子が存在しているのかすら確認しようがない。


 現実ではない場所でしか会った事がないのだから……。


 肌の露出が少ない長袖で小学生高学年くらいの可愛い女の子。


 髪は長かったと思う。


 夢での出来事だったからだろうか? もう姿形すらあやふやだ。


 眠るとまた出てくるのだろうか? しかしその事を確かめる為に今ここで寝る訳にもいかない。


「他ぬ誰か見ていればあやふやな部分も補えるのに……とりあえず書いてみた似顔絵なんてこの様だしね……」


 空き時間に似顔絵を作ってみたがコレと言って特徴が見当たらない上に私に絵の才能がない事だけが主張されている作品だ。


 現実に存在していたとしてこの絵で見つけられる事は無さそうである。


「その似顔絵で見つけられるとは思えないね……それで金縛りの時は土の匂いがしたんだよね?」


「そう花壇の土みたいな匂い。もしかして……一番最初に見た校庭のどこかに埋められてるとか……?」


 土の匂いも有力な情報となってしまうほど手掛かりが少ない。


 あの時目を開く事ができたならもう少しマシな解決策を検討できたのかもしれない。


「怪談みたいでありえそうな話だけど人工芝張る工事の時に結構穴掘ってたし人工芝張った後には埋めにくくない?」


 そうだ。受験予定の高校の校庭が掘り返されているのを近くを通った時に見た記憶がある。


 そのあとに埋められたとしても掘られた人工芝の部分は目立つ筈だ。


「学校の花壇とかは?」


「あり得ない話ではないけど……わざわざ学校に関係ない人が埋めに来るかな……?」


 その通りだろう。


 埋めにくる場所として学校は適しているとは思えない。


「じゃあ結衣はどう思うの?」


「見つけて欲しいから出歩いていた幽霊」


「幽霊って出歩くのかな?」


 その場に留まっている場面が多い気がする。いや……それも怪談話でどこまで真実かわからないじゃないか。


 だとすると私は出歩いていた幽霊にたまたま出会ってしまったのか?


「紬の家まで着いて行ってるから土地には執着していないんじゃない? 埋められてる場所から家の近くまで帰って来たとかさ」


「んー」


 見つけて欲しいからあの女の子が知っている場所とか人が……。


 そう……人が多くいる場所を探して歩いていた?


 たまたま高校の校庭に来て私と目が合った……?


 伝えたくても方法がわからないから私に取り憑いている?


 そして今も……。


「まあ本当に埋められてるかもまだわからないし女の子自体が存在しているのか確かめないとね」


「まあそうだけど……情報殆どないのにどうやって見つけるの?」


 存在していないかどうか確かめる方法はないだろう。


 それこそ自然に解決できたとしても存在していない事の証明にはならない。


「ん? 本当に見つけて欲しいならまた女の子が現れて情報をくれる筈じゃないの?」


「それって一番嫌な情報の入手方法じゃない?」


「でもそれしか情報源がないから仕方ないんじゃない?」


「そうなんだけどさ……」


「どうしてそんなに見つけたいの? 他に解決する方法があるんじゃないかな?」


「……コレ父さんにも言えなかったんだけどさ」


 父親一人残して私が死んじゃったらと想像して伝えられなかった事だ。


 父親が目の前にいない今ですら怖いとか寂しいとか色々な感情が渦を巻き私を溺れさせようとしてくる。


「ん?」


「私……昨日の金縛りで息ができなくて死にかけたんだと思う」


 そう……私は死にかけた。


 あの女の子が直接私を殺そうとしたのかはわからない。そうしないとダメだった理由があるのかもしれない。そもそも女の子なんて存在せず私の妄想の産物が引き起こしたのかもしれない。


 ただ私は金縛りによって窒息しかけたのは事実である。


「なんでいままで言わなかったのよ⁈ そんな大事ならさっさとお祓いしてしまおうよ⁈」


「お祓いして解決できるのかわからないよ?」


「それでも闇雲に探すよりずっといいじゃない? 見ず知らずの女の子の願い事なんて紬が叶える必要なんてないでしょ⁈」


「そもそも直ぐにお祓いしてくれるの? 私は……今日息ができなくて死ぬかもしれないんだよ……?」


「……紬」


「だから……お願いだから協力して結衣。他に頼る人いないの……」


「……私はいつでも紬の味方でいたいよ? ただお祓いの事とか他の解決策も考えておこうね? 私達だけでできる事なんて限られているんだからね⁈」


 昼休みが終わった事を告げる放送が聞こえてくる。そろそろ教室に戻らなければいけない。


「うん……考えておくよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る