ゾンビがやってきた

@yyytonn

第1話


『軽作業!有名中華弁当の配達サポート 高時給』

 高時給の文字につられて、新藤ヒロトはシウマイ弁当でおなじみの崎陽軒の工場に来ていた。脇には縦に並んだ高速道路が走っている。

 機械的に割り振られた結果、ヒロトは大型トラックの助手席に収まっていた。

「きみ、貧乏くじ引いたね」運転手の初老の男は言った。ヒロトは戸惑いながら笑った。

 トラックは工場のすぐそばにある港北インターチェンジから、横浜方面へ向かった。しばらくは畑の多い住宅地を通りしばらくすると海が見えた。

 ビルのはざまに、巨大な客船が見える。今話題の船だ。ヒロトは目で船を追った。

「目的はあそこだよ」運転手の男はそう言った。

「えっ?」

「弁当をあの中に届けるんだ」

 マジかよ、とヒロトは心の中で思った。

 あの船の名前は、ダイヤモンドプリンセス号。あの中で謎のウイルスに感染した人がいて、船ごと隔離されている。まだ中がどうなっているか、そのウイルスがどんなものなのか、わからないことだらけだということはネットニュースを見ていて知っていた。

 船は横浜港の端に停泊されていた。豪華客船が止まる場所というより貨物船が止まるような殺風景な場所だ。

 トラックは報道陣の間をすり抜けて規制線の中に入り、一通りの検疫と防護服を着て、弁当の搬出に取り掛かった。

 弁当が乗っているパレットを一度、持ち上げて、台車の上にのせて手押しで中へ入る。緊急的な停泊だったから、荷物用の入り口が使えず、やむを得ず人力に頼る形だと、誰かが嘆いていた。

 ブルーシートで囲われた船への連絡橋を渡り、船内へ入った。船とは思えない高い吹き抜けと豪華な装飾はこれが世界一周クルーズならテンションが上がるだろうが、今はさながら野戦病院のようだった。

 船内の防護服を着た作業員に案内され、食糧倉庫まで連れていかれる。ここにはいろいろな会社・団体からの寄付された物資が集められていた。本来は広間のような場所だった。

 パレットは全部で10個。あと9回ここを往復する。そう思うと少し気が重い。

 そのとき、奥の廊下から悲鳴が聞こえた。

 思えばそう。ここが悪夢の始まり。


 

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