第5話 冤罪栗まんじゅう
「お腹が空いたデース!」
アリッサはそう言って、お腹を押さえた。
「なんか、買って食えばいいだろう?」
俺は、そう言って他所を見たが、あることを思いつき、再びアリッサの方を見た。
「あ、そういえばアリッサさん。あなた、お金はいくら程お持ちです?もし、宜しければ少しお貸し頂けないだろうか?バイトしてすぐ返すから。」
「ワターシもお金持ってないデース。遠い所から来たからその道中で全部ないなったデースヨ。」
「お前も無一文かよ。俺も栗まんじゅう一つがやっと買えるくらいの金しか持ってない。これじゃあ、何も出来ないぞ。」
「ノーノー!何もできなくないデース!栗まんじゅうが買えマース!」
そう言ってアリッサは、真っ直ぐ指を差した。アリッサが指を差した方には、まんじゅう屋があり、その隣には宿屋があった。
「あ、宿屋だ!」
「ちょっと待つデース!おまんじゅうが食べたいデース。お腹すいたデース!シラヌイに奢って欲しいデース!」
「なんで、俺の有金をお前の腹を満たす為に使わないといけないんだ!ダメだ!」
すると、アリッサは俺の手を掴んで自分の肩に持っていった。そして、俺をじとっとした目で睨んで言った。
「このまま大声出してもいいデースカ?」
宿屋に着いた。
俺は、宿屋に入って真っ直ぐに宿主の所に向かった。後ろからは、栗まんじゅうを食べながらアリッサが付いてきた。
テーブル越しに宿主の前まできた俺は言った。
「すいません。この宿で1番安い部屋は幾らで泊まれますか?」
頬杖をつきながら座っているガタイの良い宿主は、少しだけこっちを見て答えた。
「1番安いのは、一泊で3000ジパングだ。」
「…3000ジパング?」
なんだ、ジパングって?お金の単位って、ジャポニカじゃないの?
俺は、じいさんを呼んだ。
「おい、じいさん!」
すると、さっきと同じく、椅子がガタッと動く音が聞こえてきた。
「なんじゃ!?世界が滅亡したのか!?」
「だから、よく眠れるな!この短時間で!しかも、滅亡してから目覚めるのおかしいだろ!…まぁいいや。3000ジパングっていくらだ?」
「1ジパングは100ジャポニカじゃ。つまり、3000ジパングは300000ジャポニカじゃな。」
もう、それジャポニカいらないだろ。ジパングだけでよくないか?
俺は、宿主の方を見て言った。
「いやー、今お金がなくてですね。後で払うんで今日だけ泊めてくれませんかね?ハハッ。」
それを聞いた宿主は、険しい表情になり、頬杖を止め、指をバキバキと鳴らしながら答えた。
「この宿に泊まった後、半年は病院に泊まることになると思うが、それでいいか…!」
俺は宿主のあまりの威圧感に「で、ですよねー…。」と言いながら後退りした。
すると、アリッサが俺の後ろからひょこっと出てきて、宿主に言った。
「ワターシは、お金ありマースから泊めて欲しいデース!」
アリッサは、さっき持っていないと言っていたはずのお金を取り出した。
「お、おい!アリッサ!お前さっき金ないって言ってただろ!なんで持ってるんだ!?」
「あれは嘘デース!大きいお金崩したくなかったノデ、シラヌイに払ってもらいマーシタ!」
「てめぇ!ふざけんじゃねぇ!もう50ジャポニカしかないんだぞ!俺の4950ジャポニカを返せ!」
「そんなの元々ないようなモンデース!諦めてクダサーイ!」
取っ組み合いを俺とアリッサは始めた。それを宿主は黙って見ていたが、暫くしてから鬼の様な形相で口を開いた。
「お前ら…宿の中で騒ぐんじゃねぇ…!」
凄い威圧感に俺達は借りてきた猫の様にシュンとなった。
泊まれないなら別の所を当たってみるか。それともアリッサの金でもくすねてやろうかな、なんて考えてた時、2人の少年が宿の中に慌てて入ってきた。
「大変だ!レイ君が森の中に入っていっちゃった!」と1人の子が叫んだ。
「なに…!?」
宿主は、驚くと同時に焦りの表情を見せた。
「あの森では最近、凶暴な獣が出ると言われてる…!クソッ!」
宿主は、勢いよく立ち上がりそのまま宿を飛び出して行った。
一瞬の出来事に俺は唖然としていた。
すると、宿主が座っていた場所の後ろにある扉から1人の女性が出てきた。恐らく、宿主の奥さんだろうと見受けられるその人物は、恐る恐る子供達に尋ねた。
「今の話は本当…?」
子供達は、勢いよく大きく頷いた。
それを見た奥さんは、俺達の方を見て言った。
「すいません!あなた方は冒険者様ですか?なら、レイと…うちの主人を助けていただけませんか!?あの人は、あんな強面だけど実は一度も喧嘩すらしたことないんです!」
あの威圧感で!?そんなツッコミを心の中でした後、俺は奥さんに答えた。
「わかりました!でも、僕は少し実践経験があるだけで冒険者ではありませんので、他の戦える人にも救援を要請して下さい。」
そう言うと俺は、宿の外に駆け出した。と、それを見てアリッサが俺に付いてきた。
「アリッサ!お前は危険だからここにいろ!」
「チンピラにボコされたのを実践経験に数えてイル、戦闘初心者を1人で行かせられないデース!それにワターシは実践経験ありマースヨ!」
アリッサは、こっちを真っ直ぐ見ながら言った。
「好きにしろ。」と言って俺はアリッサと共に宿を飛び出した。
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