第3話 金髪とチンピラ共とクソ雑魚

こんな感じでザ・グレート・ヘルニアとかいう白髪じいさんに、強制的に異世界転移させられた俺こと不知火フレンは、鑑定してわかった俺のスキル、デバフとじいさんに貰った、栗まんじゅう一個しか買えな額の小銭を持って、見知らぬ町を歩いていた。


町は、中世ヨーロッパ風で如何にも異世界って感じだったが、少し田舎臭く感じた。たぶん、ここは都心部から少し離れた場所だ。


「フレンよ、宿屋はそこを左に曲がって真っ直ぐに行くと右手に見えてくるぞ。まぁ、君の持ち合わせじゃと泊めてもらえんじゃろうがね、ほっほっほ。」


「うるせぇよ!なら、もうちょっと用意してくれてもよかっただろーが!あと、そのほっほっほってコテコテの老人笑いやめてくれないか?いちいち腹立つから。」


じいさんは、離れても指示できるように通話魔法というものを俺にかけていた。


街に来る前のこと。


「ヘブンズゲート!!」


じいさんがそう叫んで、俺に人差し指を向けた。


「これで、離れてもワシと話ができるようになったぞ。」


「もしかしてヘブンズゲートって魔法名か?なんか名前負けしてないか?その魔法。」


「町に行っても右も左もわからんだろうからワシがお主をガイドしてやろう。ワシは町に何年も通っとるから、そこんとこは任せい。」


じいさんは自身満々な顔をしながら言った。


どうせ、このじいさんのことだから、町のことを大して分かっておらず、


「いや〜、普段決まった場所にしか立ち寄らんから、それ以外の土地鑑は持ち合わせておらんかったわい、ほっほっほ」


ってなことを言いそうだが、まぁ全く情報がないよりはマシか。


「あんまり期待してないけど、まぁ頼むは。」


俺はそう言ってポケットに手を突っ込んで歩き出した。


再び町にて。


取り敢えず、宿屋に向かっている俺はその道すがら、路地裏の方から何やら穏やかじゃない、ドスの聞いた男の声を聞いた。


「てめぇ、どうやら痛い目見ないとわからねぇらしいなコラ!!」


「てめぇ、一体どう落とし前つけるんだコラ!!」


声の主は、2人組のチンピラで、それはどうやら1人の金色の髪をした少女に向けられてのものだった。


これまた、テンプレな展開である。


最早、異世界におけるこのシチュエーションは、義務教育みたいなものなのだろう。


そう思うと、なんだか2人組のチンピラもかわいい奴らに見えて来た。


「おい、お前ら!」


まるで、ヤンクミみたいな口上で少女とチンピラの間に割り込んだ俺は、少女を片手で俺の後ろに誘導し、もう片方の手でチンピラを押し退けた。


「なんだてめぇコラ!」


「邪魔すんじゃねぇコラ!」


チンピラに威圧されて、心の中で「ああ…やっぱりやめとけばよかったかな」と、少し弱気になってしまったが、表にはそれを出さず、あくまで強気な態度を示した。


「邪魔?いたいけな少女を寄ってたかって怒鳴りつけるチンピラの邪魔をして何が悪い?随分と血の気が多いようだな、カルシウム不足野郎共。来い!俺が相手になってやるぜ。」


「てめぇ、いい度胸だコラ!ボコボコにしてジャガイモみたいな顔面にしてやるコラ!」


俺は臨戦態勢に入り、じいさんに聞いた。


「じいさん!俺のスキルはどうすれば使える?」


「え?ああ…確か、君のスキルは中腰になり、手のひらを前に思いっきり突き出して、できるだけ大きな声で「オーバー・ザ・ドリーム!!」と唱えるのじゃ。そうすれば敵のスキルが弱体化する。」


「だから、なんで効果の割に名前が壮大なんだよ!めちゃくちゃ恥ずかしいだろ、それ!」


とは言え、今はそれに頼るしかない。俺は、じいさんの言った通りに構えて大声で叫んだ。


「オーバー・ザ・ドリーム!!」


俺の叫びと共にチンピラ達は俺に殴りかかって来た。

チンピラは弱体化したはずだから、これで戦える。そう思ってチンピラのパンチを避けようとしたが、普通にチンピラのパンチは速くて避けられず、頬にもろ喰らってしまった。


「あっ…えっと…」


弱体化したよね?あれ?してない?それとも、もともとチンピラが強すぎて、弱体化したところで意味ないの?


色々な考えに頭の中を支配され、俺はきょどりだした。


殴られた頬を押さえながら俺がきょどっている俺を見て、チンピラもこれ攻撃していいのか?みたいな顔をしだした。


チンピラと目があった。い、いいか?みたいな顔をしたので、俺は、ま、まぁいいですけどみたいな顔で返した。


チンピラは静かに膝蹴りを俺の腹に喰らわせてきた。


俺は2人のチンピラにフルボッコにされた。しかし、あまり痛みは感じなかった。たぶん、さっきの詠唱の方がよっぽど痛かったから…。


しばらくした後、チンピラ達は飽きたのか、表通りの方へ消えたいった。


チンピラ達の姿が見えなくなった後、唐突にじいさんの声が聞こえた。


「君のスキルは、相手のスキルを弱体化するだけで、基礎能力を下げるものではないぞ。」


それ、先に言ってくれないか?それを知ってれば、少女を連れて人気の多い所に逃げるとか、他の方法を選んでたから。


そう思いながら、俺は起き上がって、「もうちょっと自分のスキルについて、調べとけばよかった」と呟いた。


「け、怪我は…?」


そう言ったのは、チンピラに絡まれていた少女だった。そういえば忘れていた。少女を助けるためにチンピラと戦ったんだった。ほぼ、一方的にやられただけだったが。


「ああ、大丈夫だ。君の方こそ大丈夫かい?」


彼女は、ニッコリと笑って大きく頷いた。


可憐で奥ゆかしい雰囲気のその小柄な少女は、俺の方を真っ直ぐに見つめながら微笑んでいた。


それに俺も微笑みで返した。


「君みたいなお淑やかなレディを助けられたなら、俺もボコボコにされたかいがあるってもんだ。君、名前は?」


少女は、少し間を置いてゆっくりと口を開いた。


「ワターシの名前は、アリッサ・ブラックペッパーといいマース!」


…勘違いだろうか?何故か、少女がカタコト言葉で自己紹介した様に聞こえたが。


「助けてくれてありがとデース!マァ、助けると言ってもアナタは一方的にボコボコにされてるだけの、タダのクソ雑魚でしたケドネ!」


「言わなくていいだろ、後半部分!」


やっぱり、彼女はカタコトで話している。一体、どういうことだ?俺は、少女に背を向けた後、じいさんにその疑問をぶつけた。


「じいさん、なんで彼女はカタコトなんだ?異世界だろここは?」


すると、えー、と悩んだ後、言葉が纏まったのかじいさんは話し出した。


「君を召喚した時に、この国の言語を理解できる様にしておいたのじゃ。だから、君はこの国の言葉が分かるのじゃが、彼女はおそらく別言語を使う国の出身で、まだこの国の言語に慣れておらんのじゃろ。じゃから、カタコトなんじゃよ、たぶん。」


再び少女の方を見ると、少女はまたニッコリと笑っていた。

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