第4話

 その現実の中、私は二度目の出会いをすることになる。

 本当に、たまたまの出会いを。



 市役所の近くに、美味しい担々麺の店がある。

 麺や「こころ」というテーブル席二つとカウンターのみという小さなお店だ。


 担々麺というと、辛いラーメンみたいなイメージがあるかと思うが、唐辛子と胡麻のスープあたりがジャパニーズ担々麺の基本形です。大体汁なし担々麺の方が、本家に近いらしい。


 とは言え。


 本家がどうとかはどうでもいいのである。

 ポイントは、この店の担々麺が美味いという事実のみ。


 私は、いつものように食券を購入して、カウンターへと座る。

 オーダーは、いつもの特製担々麺。

 スタンダードに、チャーシューと卵が追加されたものだ。


 待ち時間の間に、twitterをチェック。

 最近は、チムメンが次々とtwitterを使ってやりとりを始めている。

 こういう、新しいSNSを使いこなす若者たちに対して、私は後を追いかける一方である。

 いや、私もまだ二十代だし、若くないわけではないのだが。

 大体、みんなごはんのたびに、写真をアップしたりとか。

 webでの身バレは、リスクしかない。

 それがオンラインゲームであろうが、SNSであろうが。


 ゆみみさんあたりの、SSやら食事やらツーリング風景やら何やらアップする人は、こちらが見ていて、ちょっと心配になったりする。


 だから、私はポンタの画像くらいしかアップしない。


 大体、ごはんが出てきて、悠長に写真撮っているヒマがあったら、まず、食え! って思うのだ。

 せっかく作ってくれたものでしょ、と。


 そんなことを思ううちに、特製担々麺がやってきた。

 卓上の十七味をちょっと追加して、おもむろにすすり始める。

 すると、隣にサラリーマンらしき男性が。


 ふと、視線が横に。

「あ」

「あ」


 そこに、佐々木さんがいた。

「こんにちは。給食センターの方ですよね。こちらのお店にはよく?」

「え、ええ」

「ああ、すみません。話しかけると麺が伸びちゃいますね」

 そう言って、自分のスマホに目を落とす。


 ふむ。なかなかに好感度の高いしぐさ。

 陽キャ連中みたいに、あれこれ話しかけてこないのはポイント高い。

 私は特製担々麺に集中することにした。

 そうこうするうちに、向こうにも特製担々麺が届いた。

 ぱらりと十七味を足して、豪快に食べ始める。

 とても嬉しそうに。


 再び視線が。

 あ、目が合った。


 あ、あああああ。

 何か、私がじろじろ見てたみたいじゃないか。


「美味いですよね」

「ああ、うん。美味しいですよね」


 それだけ言って、再び担々麺に集中する。

 スルースキル高いな。

 つか、食べるの早い。

 同じタイミングで追い飯が来た。


 ここの担々麺は、麺を食べるとご飯を投入。

 そこに酢と海苔をふりかけて食べるところまでがデフォルトだ。


 スープの旨みを十分に堪能する。


 ほぼ、同じタイミングで完食。


「ここの担々麺って美味しいですよね」

「ですよね」

「さて、ではお先に」


 そう言って、次はカウンターに向かって「ごちそうさまでした」

 カウンターに向かってごちそうさまが言える人って、最近少ないかも、だね。


 私は佐々木さんを見送った後、立ち上がる。


「ごちそうさまでした」


 カウンターに一声かけて、店を出た。

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