△▼私のヒーローは悪の組織!△▼

異端者

『私のヒーローは悪の組織!』本文

 最初は、なんとなく見ていただけだったと思う。

 始まりは、日曜日の朝にテレビを点けたことだった。

 よくある子ども向けのヒーロー番組。毎回、悪の組織が問題を起こしてヒーローがそれを解決するアレ。

 だが、何度か見ているうちに私は無意識のうちに応援するようになっていった――ヒーローではない、だ。

 当時、働いてこそいたが平社員で失敗続きの私にとって、ヒーローに何度打ちのめされようと挑んでいく悪の組織の姿勢は尊敬に値するものだった。

 何度も失敗し、辛酸をなめながらも、「世界征服」という過ぎたる夢を掲げ、目標に向かって努力を怠らない悪の組織。たとえ最初のうちは計画が上手くいっていても、最後には必ずヒーローにその計画を潰されてしまう。

 片や、そのヒーローの方は問題が起こったらようやく重い腰を上げて対処するだけ。場当たり的で、計画性も何もない。正義という大義名分を掲げ悪の組織を蹂躙し、楽して成果だけ挙げているように見えた。

 今思えば、私は悪の組織に自分を重ねていたのだと思う。仕事は上手くいって当たり前で誰かが褒めてくれる訳ではなかった。それでも働かなければいかない自身の境遇を、決して評価されず失敗しながらも歩み続けようとする悪の組織と同様に見ていたのだろう。

 だからこそ、私はその番組に夢中になった。当然、悪の組織は毎回やられてしまうのだが、それでも何度となく立ち上がってヒーローに挑んでいこうとする姿は私の心を打った。

 もはやそこには善悪という概念は無く、ただ純粋に努力を重ねる姿のみが残った。

 日曜朝のその番組が、その時の私の心の支えだった。いくら失敗して叱られても、その番組を見ると月曜日には仕事に出ていこうという気になった。

 私は思わずファンレターを書いた。悪の組織を勝たせてください――冷静に考えれば首をかしげるような内容だが、その時はそれでも真剣だった。

 だが、その夢は決して叶うことはなかった。当たり前だ。勧善懲悪のヒーローもので悪の組織が勝ってはまずい。しかしそれでも、応援したくなる何かがあったことは確かだった。

 最終回を見終えた時、悪の組織が壊滅したことに心から涙した。努力は報われず、全ては無に帰した――そう感じた。胸にぽっかりと穴が空いたような気がした。


 それから、十年が経った。

 仕事はそこそこできるようになって、結婚もした。子どももできた。

 今ではその子ども、息子が日曜朝にヒーロー番組を見ている。

 この子も、今は正義のヒーローの方に夢中だが、悪の組織の大変さに気付く時が来るのだろうか……。


 あの番組の悪の組織は今でも、私にとってのヒーロー、いやだ。

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