秘密④

「王子さん?どうかしましたか?」


「…え?」


倉音さんに見惚れていた私は声をかけられ、我に返る。


「なんだか、ぼーっとしてましたけど…?」


心配そうにじーっと見つめている倉音さんに気づくと思わず、顔を逸らしてしまう。


「う、ううん!は、初めて友達が出来たことが嬉しくて感動してただけ!」


さすがに倉音さんに見惚れてたとは恥ずかしくて言えなかった為、誤魔化すことに。


それに、嬉しいのは本当だから嘘ではないよね…。


「そうだったんですね!えへへ。実はわたしもお友達が出来たのは初めてなのですごく嬉しいです!」


「そ、そうなの!?」


倉音さんはクラスでも明るく人気者だったので、当然私以外にも友達はいると思っていたので意外だった。


「そうなんですよ。昔は暗い子だったのでお友達を作れなかったですし、変わってからも恩返しのことで頭がいっぱいで、お友達を作る余裕がなかったといいますか…。」


「そうだったんだね…。ごめん…。」


「そ、そんな!王子さんのせいじゃないですから!わたしが勝手に悩んでいたことなので。それに…」


「それに?」


「今は初めて出来た、すごく素敵で大切なお友達がいますから!」


倉音さんは私の両手を握ると、嬉しそうにそう言った。


「あ、ありがと…。私も…だよ…。」


本当は、私も倉音さんのこと大切な友達だよと、ちゃんと伝えたかったけど、今の私は手を握られていたこともあり、これが精一杯で。


だけど、それだけでも倉音さんには伝わったようですごく喜んでくれて、それが私も嬉しくて。


しばらく二人で微笑んでいた。


…のだけど。


「あ、あの…。倉音さん…?」


「どうしました?」


「そ、そのぉ…。」


「んー?」


「そ、そろそろ手を…。」


未だにずっと手を握られていることで、そろそろ私の恥ずかしさも限界が近かった為、倉音さんに伝える。


「あ!ご、ごめんなさい!わたしったら!」


倉音さんも私の様子に気づき、ぱっと手を離してくれると、今度は王子モードにならずに済む。


それから、倉音さんとまだ連絡先の交換をしていなかった為それを済ませると、下校時刻のチャイムが鳴ってから大分経っていることに気づき、そろそろ帰ろうかという話になった。


だけど、その前に私は倉音さんにお願いしたいことがあったため少し待ってもらう。


「あ、あのね。く、倉音さんにお願いがあるんだけど。」


「私に出来ることがあればなんでも言ってください!王子さんの為ならなんでもしますよ!」


「え、えっとね。その…。わ、私を王子と呼ばないで…ほしいんだ…。」


「あ!ご、ごめんなさい!体質のこと気にしてますもんね…。嫌でしたよね…。」


「う、ううん。そうじゃなくてね。倉音さんには…その…。な、名前で呼んでほしくて。本当の私のことを知っても、友達になってもらえたから…。だめ…かな…?」


「だめじゃないですよ!是非、お名前でお呼びしたいです!」


「い、いいの?」


「もちろんです!ただ…わたしのことも名前で呼んでほしいです!」


「う、うん!それはもちろんだよ!それもお願いしようと思ってたから。」


「えへへ!そうだったんですね!嬉しいなぁ!」


「そ、それじゃあ。改めてよろしくね。姫華さん。」


「はい!こちらこそよろしくお願いしますね!夢子さん!」


無事お互いを名前で呼び合うことが決まり、二人で一緒に帰る。


その日の夜。


お風呂を済ませ、部屋に戻るとスマホに一件の通知が入る。


確認してみると、それは姫華さんからで。


明日一緒に学校に行きませんか?という内容だった。


私はもちろんいいよ!と返事をするとすぐに返信が来て、待ち合わせ場所と時刻が決まり、その後もしばらくやり取りをしていた。


それが嬉しくて、ずっとニヤニヤしていたのは内緒である。


こうして、私の人生を変えることとなった、大切な一日が終わり、明日になる。




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