秘密③

その後。


恥ずかしがり屋克服のために、これからなにをしていくかを話していく。


けれど、なかなか良い案は思いつかない。


「うぅ…。わたしから言い出したことなのに…。お役に立てずすみません…。」


なにも案を出すことが出来ず倉音さんが落ち込んでしまう。


「そ、そんなことないよ!一緒に克服しようって言ってくれただけでもすごく心強いし、嬉しかったから!」


ずっと、一人で悩んできたことだから。


だから、本当に心強いし、なによりも倉音さんの気持ちが嬉しかった。


すると、倉音さんは元気を取り戻し。


「えへへ。王子さんはやっぱり優しいですね!」


嬉しそうに私の右腕に抱きついた。


「く、倉音さん!?」


私は倉音さんに抱きつかれたことによって恥ずかしくなり顔を真っ赤にしてしまう。


さらに、ぎゅーっとしてくる倉音さん。


なんとか王子モードになる前に離そうとしたのだけど、すでに手遅れで…。






「やはり姫は笑顔が素敵だね。そんな姫を見られる僕は幸せ者だよ。」


僕は左手で姫の髪にそっと触れると、姫をじっと見つめる。


「お、王子さん…。」


頬を染めうっとりとしている姫。


その姿も美しく、目を離すことが出来ない。


二人で見つめ合い、やがて姫が顔を少し上げると目を閉じる。


そんな姫に僕は吸い寄せられる様に顔を近づけていく…。


そして…。






キーンコーンカーンコーン


最後の下校時刻を知らせるチャイムが鳴る。


私は寸前のところですぐに顔を離すと、倉音さんから離れる。


あ、危なかった…。


もう少しで、倉音さんと…。


それ以上考えるとまた王子モードになりそうなのでやめておく。


「ご、ご、ご、ごめんなさい!急に抱きついちゃったから…!そ、それに…」


「そ、そんな!倉音さんのせいじゃないから!き、気にしないで!」


倉音さんがさっきのことを口にする前になんとか遮ると、お互いにひどく動揺していたため、一旦気持ちを落ち着けることにする。


それから、なんとか落ち着くとまた克服のことについて話し始める。


「それにしても、改めてお話を聞いてから見てみると王子モードってすごいんですね。一瞬で変わって、すごく積極的でした。」


「そうなんだよね…。」


「それに、王子モードじゃない王子さんは予想以上に恥ずかしがり屋さんでした。」


「うん…。だから、困ってるんだ…。」


「これは克服するの大変そうです。」


「うん…。」


「ただ…。そうですね…。」


倉音さんはなにかを考えるように黙ってしまう。


「ど、どうしたの…?」


「うん!これからのことでいくつか思いつきました!」


「ほ、ほんと!?それってどんな!?」


「えっとですね。まずは再確認なんですが。」


「うん?」


「王子さんは現在お友達は?」


「いないです…。というか、今までもいたことないです…。」


昔、少し仲良くなった子はいたけど。


その子と友達になる前にいなくなっちゃったし。


それ以降は特に…。


「では、お友達を作りたいとは思っていますか?」


「作りたいとは思ってるけど…。」


「なら一つ目は決まりですね!」


「え、えっと…それってもしかして…。」


嫌な予感がするけど、私は恐る恐る倉音さんに尋ねる。


「はい!お友達を作っていくんです!なので…」


「むりむりむり!私今まで友達出来たことないんだよ!?恥ずかしがって相手を見て会話することも出来ないのに…。そんな私と友達になってくれる人なんて…。いないよ…。」


予感が当たっていることがわかり、私は倉音さんの話を最後まで聞かずに否定してしまう。


だって、今も倉音さんと話すのに顔を見れずにいるのに…。


「ほんとにそうですか?」


「え…?」


「ほんとにそんな人いないと思ってますか?」


「うん…。」


「そうですか…。」


そう言うと無言になる倉音さん。


せっかく案を出してくれたのに否定して、怒らせちゃったよね…。


そう思い倉音さんに謝ろうとした時だった。


「あ〜あ!こんなに近くに王子さんとお友達になりたいと思ってる美少女がいるのにな〜!その子気づいてもらえなくて泣いちゃってるな〜!え〜ん!え〜ん!」


突然、倉音さんがわざとらしくそう言うと、泣き真似をする。


そして、一旦やめると口でチラッっと言いながら私を確認すると、また泣き真似を始める。


最初は突然のことで呆然としていたが、何度か繰り返されるとあまりのわざとらしさに笑いそうになってしまう。


だけど、なんとか耐えると、質問する。


「それって、もしかして…。倉音さんが友達になってくれるってこと…?」


「え〜!どうですかね〜!全然気づいてもらえなかったしな〜!その子いじけちゃってるな〜!」


「あぅ…。」


「で~も~!王子さんからちゃんと言ってもらえたら、機嫌戻っちゃうかもな〜!まぁ、王子さんがその子とお友達になりたくないなら、言わなくてもいいんですけどね〜!」


「そ、そんなことないよ…!」


倉音さんと友達になれるというのならなりたい。


だけど、気になることがあって倉音さんに尋ねる。


「あのね…。倉音さんに聞きたいことがあるんだけど。」


「なんですか?」


「ほんとに私で…いいの…?」


「もちろんです!そもそもですね。顔を見て話してもらえないからって、気にしません!それ以上に王子さんの良いところ知ってますから!」


「でも、私の克服の為に…無理してない…?」


「してないですよ!それに、お友達になりたいという気持ちは、王子さんの克服の為ではないですから!ただ…。」


「ただ?」


やっぱり無理させちゃってたのかな。


そう思い心配になる。


だけど、それは私の考えすぎだったようで。


「さっきの演技は少し無理してました。さすがのわたしでも恥ずかしかったです…。」


「さっきの演技って…。…ぷっ」


私は先ほどの演技を思い出し、今度は我慢出来ず笑ってしまう。


「思い出さないでください!だめですー!!!」


「ご、ごめん。で、でも、我慢できなくて…。ぷっ」


「あー!またー!もー!」


初めは私が笑ってしまっていることに怒っていたが、次第に倉音さんも笑い出してしまう。


しばらく二人で笑い合い、やがて落ち着いてくる。


「ほ、ほんとごめんね!笑っちゃだめって言われたのに…。ごめんなさい!」


「そんな謝らなくていいですよ!わたしも楽しかったですから!それにですね!」


「それに?」


「王子さんとお友達になって。一緒にこんな風に笑い合ったり。他にも一緒にいろいろしたいなって。そしたら、すごく嬉しいし、楽しいなって!そう思ってたので!」


そんな風に思ってくれてたことが嬉しかった。


私も倉音さんと一緒にいると楽しいと思えたから。


だから、伝えよう。


「倉音さん。」


「どうしました?」


倉音さんの方を向き。


「私も…。倉音さんと一緒にいると楽しい。これからも一緒にたくさんそう思いたい。だから…。」


倉音さんの顔をしっかりと見る。


恥ずかしさから、顔を逸らしそうになるが、必死に耐える。


ちゃんと顔を見て伝えたいから。


「私と友達になってください!」


「はい!なります!」


倉音さんが笑顔で答えてくれる。


初めてしっかりと見る倉音さんの笑顔はとても綺麗で。


思わず見惚れてしまう程だった。

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