第23話 距離を縮める
あのあと心配して乗り込もうとしてきた母さんと姉さんをなんとか止めて、真壁さんの運転で学校に向かうことになった。
後部座席に案内されたが、いかにも送らせている感があったので断って助手席へと座ることにした。
真壁さんは何度も後部座席じゃなくていいのかと聞いてきたが、話し相手になってほしいと伝えるとすんなりと了承してくれた。
「改めて今日からよろしくお願いしますね。真壁さん。」
「はい。これからの送迎はお任せください。もし眠くなった場合は遠慮せずにお休みくださいね。」
「ありがとうございます。その時は甘えさせてもらいますね。」
「え、えぇ。遠慮なく甘えてください!!!悠様ならなんでも!!」
お、おぉ。なんか急に圧が強くなったな。
じゃぁと、俺は今朝から気になっていたことを聞くことにした。
「あ、そういえば気になってたんですけど、今朝も俺のこと下の名前で呼んでましたよね?」
真壁さんはビクッとしてこちらを向くと顔を青ざめながら謝ってくる。
「ご、ご不快でしたか!?お母さまや夕寧さんも御門様ですし、紛らわしいかなと思い…あと、特に突っ込まれなかったので大丈夫なのかと思っていたのですが…そうですよね…いきなりお名前を呼ぶなんて失礼でしたよね…うぅ…私ったら、これからも一緒に居られる思たら、ついテンションが上がってしもて…。あぁぁ…ほんとに申し訳ありませんでしたぁああ!!」
「え!?ちょ!!前見てください!前!!!別に怒ってるわけじゃありませんから!」
うわぁぁぁと半狂乱状態で運転する真壁さんを必死で宥める。
幸いにも車がほとんど通っていなかったこともあり少し道から外れそうになっただけで済んだ。姉さんといい、俺が車に乗ると毎回事故りそうになるのはなんでだ…
「も、申し訳ありません。ご不快な思いをさせてしまったのではと、気が気でなくて…」
なんとか落ち着いてくれた真壁さんにさっき言いたかったことを伝える。
「はぁはぁ…。いや、元はと言えば俺のせいですから…。えーっとですね、さっきのは別に怒ってるとかじゃなくて、せっかく下の名前で呼んでくれてるなら、俺も真壁さんじゃなくて友梨さんって呼ばせてほしいな〜ってお願いしようと思ってたんですよ。」
俺がそう伝えると、真壁さんがさっきとは打って変わって頬を赤らめなんとも嬉しそうな表情でこちらへと顔を向ける。
「ほ、ほんとうですか!?ぜひ!ぜひとも友梨とお呼びください!!あ〜よかったぁ…私の勘違いだったんですねぇ~♪よかったよかった~!」
ご機嫌になった友梨さんだったが、先ほどのことがあったからかこちらを向いたのは一瞬で、すぐ正面へと向き直り運転を続けてくれる。
名前で呼ぶ許可をもらえたことだし、これからは友梨さんと呼ぶことにしよう。
…でもさっきの笑顔はほんとに可愛かったな。俺の方が先に惚れてしまいそうだ。
そのあとは他愛のない話をしていると学校までもうすぐ着くであろう距離まできた。
だが、先ほどから歩いている生徒を一人もみかけなかったのを疑問に思った俺は友梨さんに聞いてみることにした。
「友梨さん友梨さん。もうすぐ着くと思うんですけど、なんで生徒が一人もいないんですか?」
「っ!え、えぇと。実はですね、本日、悠様が始業式の途中で編入生の挨拶をするというのは生徒には知らせていないんです。そのため、私たちが今この時間に来ているのは、生徒が登校し終わったタイミングなんですよ。」
「あぁ、それで誰も見なかったんですね~。ん?ってことはサプライズで登場!みたいなことです?……それってまずくないですか?」
編入試験のときも男子がいることで騒ぎになるのを避けるために1日登校を規制していたのに、いきなり登場していいものなのか??
「まぁ、どっちにしろ悠様が入学されたら騒ぎになるのは目に見えておりますので、”今日男が編入するらしい”というのと”突然男が現れて編入が決まっている”では、後者の方が騒ぎも一瞬で済みそうとのことで、理事長はそちらを選択したようですよ。」
結局騒ぎにはなるんですね……。
そうこうしているうちに、地下駐車場へとたどりついた俺たちは車を降りて移動を始める。
「本日は始業式が終わるまでは私もお供させていただきますので、何かご不明な点がございましたら遠慮なくお聞きくださいね。では、エレベーターに乗っていきましょうか。」
俺は編入試験のときを思い出しながら友梨さんと一緒にエレベーターに乗り込む。
そして見覚えのある部屋に到着し、ノックをすると『はいはい~どうぞ~。』と聞きなれない声が聞こえたが、友梨さんは気にしない様子で中へと入っていったので俺も続いてはいることにした。
「おぉ。待っていたよ御門くん。なんだか久しぶりな気がするねぇ~。うんうん、制服姿もなかなか様になっているじゃないか。」
「お久しぶりです、理事長先生。ありがとうございます。今日からよろしくお願いします。」
理事長先生と軽く挨拶をし、俺は横にいる人物へと目を向ける。すると、彼女は俺が見ていることに気づきニコッと笑った後に名乗り始めた。
「お初にお目にかかります~。友梨の姉の
「どうも初めまして、御門悠といいます。ありがとうございます。綺麗な方にそう言っていただけると嬉しいです。」
ほぉ~雪さんか。友梨さんはビシッとした感じだけど、なんだか方言も相まってぽわぽわした感じだな。
雪さんは丸い眼鏡をかけており、長い髪を一つ結びのおさげにして前に垂らしている。顔は友梨さんと似ているがとある部分が凶悪なほど主張していた。
「友梨が急に秘書を変われって言うてきたときはなんでなんやろ~思てたんですけど、そういうことやったんですね~。」
そういって話し続ける間にも形を変えてぶるんぶるんと揺れるそれを何とか見ないようにしていると、友梨さんが間に入ってきて雪さんを部屋の外まで連れて行ってしまった。
「いやぁ、なかなかにおもしろいことになりそうじゃないか。がんばりたまへよ少年。」
すると、理事長先生がくっくっくと笑って俺の肩を叩いてきたが、俺は、はははと苦笑いすることしかできなかった。
しばらくして頭を押さえながら戻ってきた雪さんと、少しむくれていた友梨さんがそれぞれの位置へと戻り、理事長先生がそろそろ移動しようかと立ち上がったので俺たちは始業式のため会場へと向かうのであった。
☆あとがき☆
友梨ちゃんのお姉さんの登場です。
元々第2秘書として雇われていたお姉さんと友梨ちゃんの立場が入れ替わったという感じです。
そして、姉妹の出身は京都です。
友梨ちゃんは長い秘書生活の中で方言を矯正しましたが感情が高ぶりすぎるとポロっと出てしまいます。お姉さんは全く気にしておらず友梨ちゃんから度々怒られています。
方言っていいですよねぇ。
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