第24話 編入生挨拶

始業式の会場は軽く1000人は入りそうなくらい広い大ホールだった。

なぜこんなでかい大ホールが学校の敷地内にあるのか疑問に思ったが、そこはいろいろと事情があるようだ。


いきなり会場のドアを開けて入っていく理事長に驚き、つい隠れてしまったがどうやらまだ他の生徒は皆HR中らしくこのホールには生徒はまだ一人もきていないらしい。


そういうのは先に言っておいてほしかった。変に緊張してしまったじゃないか。



「まぁでも、あと1時間もしたら全校生徒がこのホール内にくるはずだよ。それまでに今日の流れと、君に話してほしいことを決めてきたから軽く打ち合わせとでもいこうか。」


そして、舞台裏の個室で理事長先生と打ち合わせを始める。だが、とりあえず自己紹介さえしてくれたらいいから、となんとも適当なことを言い始めた。


「いや、だって新入生・卒業生代表の挨拶とかじゃないんだから、「穏やかな春の陽射しに〜」みたいなことは言う必要は無いからねぇ。それとも言いたかったかい?適当でいいのさ、気楽に好きなものとか、なんなら好きな女の子のタイプとか話してくれたらいいんだよ?」


「えぇ…。」

俺は編入試験の面接の時のあの先生たちの獲物を狩るような視線を思い出し、本能的にタイプなど口にしてはいけないと悟った。


そこからは4人で談笑しながら待機していると、始業式が始まるとのことで理事長先生は先に行ってしまった。


そして、始業式が始まり、俺の知っている流れと同じように進んでいく。

理事長のありがたいお話が始まると、俺の出番が近づいてきたのを感じ少し緊張してしまう。


「~というわけで、この学校は共学ということもあり、男子生徒が他の学校と比べて多く通っている。1年生の子達は、今まで女というものは恐ろしい存在であると教えられてきたと思うが、男子諸君は安心してほしい。ここに通う女子生徒は厳しい男性免疫テストをクリアしたものたちしかいない。もし君たちがこの3年間で彼女たちへ少しでも歩み寄ってくれるようになってくれると私としては嬉しい限りだ。どうかよろしく頼むよ。」


そういうと、拍手が巻き起こり司会の先生が次へと進もうとしたところで、理事長先生から制止が入る。


「さて、ここで私の長ったらしい挨拶は終わりになるんだが、今日は少し特殊でね。唐突に私が話を続けたことに教員で驚いている者も何名もいるとは思うが、それについては今から説明するから安心したまへ。」


俺は襟を正し、話す内容を頭の中で整理する。


「実は今日からこの天川高校の2年に編入してくる男子生徒がいる。」


そういった瞬間生徒たちはざわつきはじめる。一部の方向から特に大きな歓声が上がったのが聞こえたので、おそらくあの辺には2年生が座っているのだろう。いや、それともまだ慣れていない1年生かな?

そして、壇上に近い席に固まって座っている男子生徒達もどこか嬉しそうな表情をしているのが舞台袖から見えたのは俺としても嬉しかった。


そして、理事長がマイクの前で手をパンっと叩くと今まで騒いでいた生徒たちが一斉に静まり返った。


「まぁ、騒ぎたくなる気持ちもわかる。特に2年生はな。だが、こうも騒いでしまうと今から挨拶する彼が緊張してしまうだろう。それになかなかのイケメンだから女子生徒は皆覚悟しておいた方がいいぞ。私もあと20年若ければ是非ともお近づきになりたいレベルだからな~。」


理事長の言葉で皆少し落ち着いたようで、最後の言葉にクスクスと笑う生徒も多くいた。


「まぁ冗談はここまでにしておこう。いつまでも待たせていると悪いからねぇ。では、さっそく登場してもらおうか。」


理事長がそういうと、俺は袖から顔を出し、マイクの前まで移動した。すれ違う時にウインクしながら「リラックスしてな」と言ってくれたおかげで緊張が少しほぐれた。


もう少し騒ぎになると思っていたが、思ったよりもみな静かにこちらをみつめていた。


俺は生徒たちを見渡し、を探してみる。すると、真ん中のところで二人が仲良く座っているのが見えて、自然と笑みが漏れる。

二人を見つけれたことで安心した俺は、挨拶をし始めた。


「皆さん、初めまして。この度編入という形で今日から皆さんとともに学ばせていただくことになりました、御門 悠といいます。といっても自己紹介と最後によろしく程度しか話せないんですけどね。他の先輩や後輩の男子も同じように挨拶をしたことは聞いていたんですが、こういう気持ちだったのかな。」


はははと笑いながら、近くの男子生徒をみてみると、うんうんと頷いてくれていた。


「まぁそれは一旦置いといて、とりあえず自己紹介ですね。改めて、御門悠16歳です。高校2年として入学したんですが、まだどのクラスになるかはわかりません。もし同じクラスになったら仲良くしてくださいね。それと、学年関係なく気軽に話しかけてくれると嬉しいです。残りの2年間どうぞよろしくお願いします。」


俺が一通り挨拶を終え、理事長達が拍手を始めると生徒たちもつられて拍手し、最終的にかなりの大喝采になってしまった。


俺は恥ずかしくなり、拍手が止んだあとにマイクを通して理事長を呼び寄せる。


「あの、理事長先生。挨拶終わったんで早くこっち来てくれません?」


コツコツと近寄ってきて、満足そうな顔をしている理事長に場所を譲る。


「いやはや、なかなかに素晴らしかったよ。というわけで、改めて御門くんが我が天川高校に入学してくれることになった。では、改めてもう一度彼に盛大な拍手を!」


パチパチパチパチと大きな拍手を受け、俺は頭を下げて舞台袖に戻ることにした。戻る際に二人へと腰の位置で軽く手を振ってみると、二人も周りに気づかれないよう手を振り返してくれた。



あとは、俺が入ることになるクラスがどこかだけだ。どうせなら二人と同じクラスになれるといいな。




☆あとがき☆

元24歳だから高校生の前くらいじゃ緊張しないでしょ。って思ってます。それか強メンタル。

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