第21話 その後
無事試験を終えた俺は、なぜか当日に合格通知と入学手続きの書類を持って家に帰ることになった。
迎えに来てくれた母さんに今日あったことを話してみると編入挨拶のところで、なんだか納得した様子で話し始めた。
「多分お父さんが入学したときに全校生徒の前で挨拶することになったのが、そのまんま男子生徒の伝統行事みたいになっちゃったのね~。ふふ。20年経ってから悠ちゃんが編入で挨拶をするっていう、新たな歴史を作るなんてなんだか感慨深いわ~。」
母さんは昔のことを思い出しながら楽しそうにしているが、俺としては親子揃ってあの学校に巻き込まれているのは感慨深いというかなんとうか…
それにしても今日はいろいろありすぎてめちゃくちゃ疲れたな…。
試験の部屋はホテルよりも設備がいいし、秘書の真壁さんは美人でスラっとしてて一見完璧に見えるのに突然暴走して自分の世界に入っていくし、今後も授業で関わるはずの先生たちは獣のような目で俺のことを見てくるし、理事長はなかなかに癖の強い人だし…。はぁ…。
母さんにも今日のことは話したが心配をかけたくなかったので、できるだけおもしろおかしく話しをしたのだ。
その結果俺の中だけですべてのことを嚙み砕かなければいけないのは精神的にも疲れてしまった。
そんな俺は母さんが運転してくれているのにいつの間にか眠ってしまっていた。家に着き心地良い揺れが収まったのにも気づかず母さんが肩を揺すって起こすまで目を覚まさなかったみたいだ。
起こしてくれた母さんは鼻にティッシュを詰め、片手にはスマホを持っていた。
一瞬やけに近い顔に戸惑ったが、紅潮した頬と拭き取り忘れていた血のあとを見て察してしまう。
……これは撮られたな。
俺はしょうがないなと少々呆れつつも母さんに釘を刺しておく。
「言ってくれたらいつでもいいんだから、…ほどほどにね。」
あくびをしながら車を降りてそう伝えると、「なんのことかな~あははは~」と慌てた様子で先に家に入っていってしまった。
俺はやれやれと思いつつ母さんを追いかけて家に入ることにした。
♦♢♦
しばらくすると姉さんが帰ってきたのでお出迎えをした後、リビングにて無事合格したことを報告する。
「なんか合格したみたい。当日に答案返却と合格通知もらったのは初めてだよ。」
「まぁ合格なのはわかっていたが、まさか当日に全て終わらすとは、相変わらず彼女はせっかちなようだ。でもすべて100点とは、悠はほんとうに賢かったんだな。これなら私と同じように学年主席になれるんじゃないか?」
「う~ん、どうだろう。編入試験用に作られた問題とかならちょっと簡単になってるかもしれないしわかんないや。でも姉さんみたいになれるようこれから勉強も頑張っていくよ。またテスト前とかに勉強教えてくれると嬉しいな。」
「あぁ。私に出来ることならなんでも協力するさ。」
「ほんと?ありがとう姉さん。改めてだけど美容院のこととか今日の試験のこととか姉さんが居てくれて良かったよ。本当にありがとうね。」
今までのお礼を伝えると姉さんに頭を撫でられた。撫でながら姉さんは微笑みポツポツと話し始めた。
「なんだか、不思議なものだな。今まで悠とこんな風に話してこなかったのに、今の悠になってから自然に姉弟として過ごせているなんて、夢でも見てるんじゃないかと思うよ。以前の悠の頭を撫でるなんてこと絶対できなかったし、こんなことを言うのはダメなのは分かってるつもりなんだが、私は今の悠になって良かったなって思ってしまうんだ。前の悠ももちろん弟として大事な存在ではあったんだが、今はここにいる悠のことがどんどん大好きになっていってるよ。」
きっと姉さんの中での悠という存在はどこか他人のようなものだったのだろう。
母さんとはよくREENで連絡を取っていた(必要なものを買わせるためだけ)が、姉さんとは数年起きに顔を合わせるだけだったろうし、それも無理はないと思う。
それに俺にとっても家族とこうやって過ごせるのは久しぶりだった。
違う世界に来てしまったが、俺はこれから姉さんにとって誇れる弟になれるといいな。
「俺も姉さんのこと大好きだよ。これからもよろしくね!」
俺は姉さんのなでなでを堪能したあと、とびきりの笑顔で思いを伝える。
ブフーッ!
すると、姉さんは鼻血を吹き出し倒れてしまった。
なんとも締まらない姉である。
その後目を覚ました姉さんと後片付けをして、ご飯を食べ、風呂に入り、始業式の日までいつも通りの日々を過ごすことになる。
そうして迎えた始業式前日の夜、明日の用意をすべて済ませた俺は明日への不安と希望を胸に眠りにつくことにした。
あの時出会った2人と再会するのを心待ちにして。
☆あとがき☆
これにて第1章完結となります!
次話からは2章の学校編がスタートします。引き続きお楽しみください。
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☆新作小説投稿のお知らせ☆
本日新作のラブコメ小説を投稿しました。
「僕は幼馴染に裏切られた。だから俺は本気を出す」という幼馴染ざまぁ系のラブコメになります。
https://kakuyomu.jp/works/16816927861984466906
こちらは話のストックが切れ次第不定期更新となります。
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