Side.真壁 友梨

私は真壁友梨。天川大学付属高等学校の理事長秘書をしています。本日、理事長と懇意にしている御門夕寧さんの弟様の案内役を拝命し、現在地下駐車場のエレベーター前で待機しているところです。


夕寧さんからは数年引き籠っていて、まともに顔を合わせたことはなく、昔の記憶では顔の整っている愛らしい少年とのことですが、やはり美人の弟はイケメンというのは決まっているものなのでしょうか。


まぁ私は秘書ですから、どんな方が来たとしてもいつも通り与えられた役割を全うするだけですね。


そして私は一台の車が近づいてきたことに気づき、襟を正し秘書としてのスイッチを入れなおして車から出てくる人物へと目を向けました。


するとその方はとんでもない美少年だったのです。

男性にしては少し長い髪を軽くワックスで遊ばせており、少し垂れ目気味な二重になんとも言えない愛らしさを感じてしまい、私はしばらく見惚れてしまったのです。


そして美少年が私のいるところまでどんどんと近寄って来たのです。私はなぜ美少年が近寄ってくるのか、自分が何をしに来たのか一瞬忘れてしまい、慌てて頭を下げます。


いきなりでしたが、体は何度も行っている動きを覚えていたのかいつも通りの動きでお辞儀ができていたようで、私は落ち着きを取り戻して美少年へとご挨拶をさせていただきました。


すると、何やら焦った様子で彼は名乗ってくださり、私はなぜ焦ったのかはわかりませんでしたが、気を取り直して本日試験を受けていただく部屋まで案内することにいたしました。


部屋についた御門様は、なんとも驚いたご様子で部屋の中をきょろきょろと見まわしていたのです。私はこの部屋では不十分だったのではないかと自分の準備の至らなさを痛感し御門様に別の部屋を提案しました。


「何か不都合がございましたか?ご不満でしたら、もう少し広い部屋を用意したしますが…」


「いやいや!ここで大丈夫です!」


ですがお優しい御門様はこの部屋でも大丈夫と仰ってくださったのです。なんとも素敵な方なのでしょう。


そして、御門様が試験を開始される前に私に上着と鞄を渡してきたのです。


「すみませんが、荷物だけ預かってもらえますか。」


どういうことなのでしょう!?この方は私が自分の上着や鞄になにかいやらしいことをするのではないかと考えないのでしょうか!?


「えっと。よろしいのでしょうか?他人に荷物を預けるなど…」


私はまだ残っていた理性を総動員して、本当に預けてもいいのか再確認する。


「?真壁さんは試験監督ですから当たり前では?俺がカンニングとかするかもしれないですし。」


そうじゃなーい!!!


「いや、そうではなく…。いえ、御門様がよろしいのであればお預かりさせていただきます。」


私はついつい心の中の声が漏れてしまいます。ですが、私を信じて預けてくださる御門様の気持ちを無碍にしてはいけないと、秘書スイッチをオンにしてこの重要な任務を遂行することに決めたのです!


「はい。お願いしますね。」


と言いながら、微笑まれてしまった私はもう駄目でした。

御門様にバレない様にほんとにちょっとだけ、ちょっとだけ上着に顔をうずめて匂いを堪能させていただいたのです。

ほんとうにちょっとだけです。ええ。いいにおいでした。


そのあと、なんとか試験を開始させ集中している御門様の横顔を眺めていると、御門様は驚異のスピードで三教科の筆記をすべて終わらしてしまったのです。


学力まで備えているとはなんともハイスペックな男性なのでしょう。欲を言えばもっと横顔を眺めていたかったのですが…


試験が終わった御門様にコーヒーをお出しし、この後の流れを説明して面接用の部屋へとご案内いたしました。

しばらく経ってからでてきた御門様はなんとも疲れたご様子だったため、あの教員たちが何かしたのではないかと思ったのですが、どうやら美人がいたから緊張したと御門様はそういったのです。


男性がそのように女性を褒めるなど、聞いたことがなかったため私はいつもの悪い癖がでてしまい、一人でぶつぶつと考え込んでしまうのでした。

ほんとうにやってしまいました。

必死で謝り、恥ずかしくなった私は理事長室へと面談のためご案内する途中で何とか落ち着くことができたのでした。


理事長の元まで案内した私はしばらく二人の話を聞きながら待機していました。理事長はなかなかに変わった方なのでそれに振り回されている御門様には何とも申し訳ない気持ちになりました。


なかなか本題を話さない理事長に、早く本題をと急かすとなんと御門様の前で私のコンプレックスである胸のことを固いなどと抜かしてきやがったのです。

私は恥ずかしさを通り越して、笑顔になり理事長を書類でぶんなぐってやろうと思ったのですが御門様に助けを求めだしたので、御門様の前ではしたない真似はできないと一旦は許してやることにしました。後で覚えておけよ。


そのあとは、本題をしっかりと伝えたのでよしとしました。

途中大翔様のことを話すと御門様はご存じの様子だったようで、詳しく聞くとなんと天川高校の生徒に休日助けられたことがあったそうです。


理事長からその生徒と御門様の今後のことについて軽く耳打ちで話を聞いた私は頷き次年度の手続きに関して後ほどまとめることにしました。


そこまで話すと理事長は満足したのか部屋の外まで御門様の背中を押しながら移動をはじめ面談は強制的に終了となってしまったのです。


相変わらず自分勝手な理事長の行動に申し訳なくなった私は呆れつつ御門様に謝罪をしました。

すると同情と励ましのお言葉をいただき、御門様のお母さまがいらっしゃるまで校舎案内をすることになったのです。


ひとまず男性が利用するであろう施設を優先して案内し、数か所回ったあとお母さまが到着されたため地下駐車場へとお送りさせていただき、お別れすることとなりました。何とも名残惜しかったのですが、帰り際に少し控えめに手を振っていただいたため、なんとも満たされた気持ちになったのでOKです!!


お見送りした私は理事長室に戻り、打ち合わせを終えた後忘れずに一発頭をしばいておいたのでした。


次は許さないからな。

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