第20話 理事長先生との面談2

真壁さんが元の位置に戻り、理事長がふぅと溜息をつくと、ようやく本題を話し始めた。


「それで今日呼んだ件なんだが、春休みが明けた登校日が始業式でね。そこで君に編入生として挨拶をしてもらいたい。全校生徒の前で、だ。」


「ぜ、全校生徒の前で…、編入生のあいさつっていわゆる新入生のあいさつ的なことですか…?」


「まぁニュアンスはそんな感じだなぁ。我が天川高校では男子が入学するときには入学式で壇上に上がって一人ずつ自己紹介をしてもらっているんだ。普通ならこれでいいんだが、編入となると全員が集まる機会を設ける必要があってなかなか面倒なんだよ。だが、君は今この時期の編入希望だったから始業式ついでにあいさつをしてもらおうというわけだよ。いやぁ、ほんとうにいいタイミングで受けてくれたものだ!」


「な、なるほど…」


そりゃいきなり新学期になって教室に知らない男がいたらたら大パニックになるのはわかるけど。

個人的な気持ちとしては、やりたくはないけど断れる雰囲気じゃないよな…。


「わかりました。正直何を話せばいいのかわからないんですがやります。」


「おぉそうか!いやぁ助かるよ~。まぁ、ある程度話す内容はこちらで用意しておくからそれを参考に思うまま話してくれていいからね。」


「それならちょっと安心しました。」


「安心したのはこちらも一緒さ。君の紹介なしでいきなり新学期が始まったら、どんな騒ぎになるやら。最悪発情した女子生徒に男子生徒が襲われて世間の信用がゼロに、なんてこともありえるかもしれないからねぇ。男子は安心して通えるんじゃないのかー!ってね。…まぁ別件で、めんどくさいことになるのは避けられないんだけどねぇ…。」


いやいや、発情して襲い掛かるだなんて、男性免疫テストとかいうの受けてるならそんなことならないんじゃないのか?何のためのテストだよ…。

今まで会った女の人は誰彼構わず襲おうとしてくる人はいなかったから、心配しすぎなだけなんじゃないのか?


「まぁ、大翔様のときに大変なことになりましたからね…。御門様が編入するとなると…うっ、履歴書の束…」


「あぁ…あのときはTVの取材に全国からの問い合わせと、休む暇がなかったなぁ…」


男子が入学するだけで志望者もその分増えるってことか…大変なのによく受け入れてくれたなぁ。ん?


「あの、はるとって誰の事ですか?」


「ん?あぁ私の息子だよ。次は3年になるから君の先輩になるかな。夫に似て綺麗な顔立ちをしているんだよ。背も低くてパッと見は女の子のようだがね。」


「てことは、天上院先輩ということですか。綺麗な顔をしてるってのはほんとだったんですね。」


「ほんとだったというと、誰かから聞いたのかい?メディア露出もしていたが、君の言い方だと少し違う気がするんだが。」


俺は先日の出来事を理事長に説明し、天川高校の生徒から天上院先輩、もとい大翔さんのことを知ったと伝えた。


すると理事長はえらくご機嫌な様子で生徒の特徴を聞いてきた。


俺は名前を出さずに二人のことを説明する。


「一人は黒髪ロングでお嬢様のような子でしたね。もう一人は関西弁と赤のインナーカラーが特徴的な子でしたよ。それに二人ともかなりの美少女です。」


俺がそういうと、理事長はあぁと納得し、二人の名前を言い当ててしまう。


「というと、夕立くんと安達くんのことだね。そうか、まだ1年しか経っていないというのになかなか優秀な子たちだ。……ふむ、友梨くんちょっといいか。」


特徴だけで誰かを言い当てられたことに俺が驚いていると、理事長は真壁さんを近くに呼び寄せて何やらこそこそと話していた。


真壁さんが離れると理事長は何事もなかったかのように話を続ける。


「つまり、彼女たちに親切にしてもらったこともあり、天川高校なら安心できるから受けてくれたということかな?」


「まぁ、そうですね…」


姉さんから紹介してくれたことが一番大きかったけど、どうせ学校に通うなら二人がいる方が楽しいだろうし、せっかくなら二人とお近づきになれたらなとかいう下心ですよ。仰る通りです。


俺は否定するのもめんどくさかったのでとりあえず頷いておいた。


「そんな顔しないでくれたまへよ。純粋にどういう経緯か君の口から聞きたかっただけさ。ただ、そうだな。私からは始業式の日を楽しみにしておいてくれと言っておこうか。」


「それはどういう…?」


「それは後でのお楽しみさ。さてと、長いこと引き留めてしまって悪かったね。一通り話し終わったから母君を呼ぶといい。これからの君の学校生活が素晴らしいものになるよう祈っているよ。」


そう言い終えると、俺の手をつかみ立ち上がらせて背中を押しながら外へと移動させられる。


バタンッ。


俺がポカーンとしていると、横からあきれた様子の真壁さんが謝罪してくる。


「本当に自分勝手な理事長ですみません…。」


「いや、えっと。なんか大変ですね…」


俺はいつも苦労しているであろう真壁さんを励ましつつ、母さんが来るまでの間校舎案内をしてもらうのであった。





☆あとがき☆

20:00に真壁友梨視点を投稿します。そちらも良ければ読んでみてください。

今のところ友梨はヒロインで考えていませんが、今後の展開でもしかしたら変わるかも!?

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