(8)『親仕込みの』


(8)【ミステリー】紫色/苺/ゆがんだ小学校 (1053字を/41分で)


 紫色の制服には秘密がある。新一年生と上級生たちの親睦を深める会では、毎年かならずこの話が囁かれる。小学校の環境にも慣れてきた九月、時期の都合で六年生を除いた四学年から二人ずつと新一年生から四人。十二人のグループで各々の好みを話したり、実際に体を動かして交流する。側から見ればとっつき辛くとも、毎年の恒例行事となった上で、学年の垣根を越えた交流が盛んな土壌のおかげで、この小学校では受け入れられている。


「秘密って?」


 新一年生のひときわ好奇心が強い少年トルヤが訊ねた。二年生の面白半分な言い方とは対照的に、面持ちが真剣そのものだ。諜報工作員と新聞記者の家系もあって秘密の探求が体に染み付いている。


「秘密が何かは、秘密だよ」

「なあんだ、知らないんだ」


 三年の太った苺鼻オタク少年のトートロジーに対し、トルヤは無知を煽る。鬱屈した日々を過ごす者は、自らを誇示できるチャンスに目敏い。軽くつつくだけで立場が脅かされるを妄想に囚われ、感情に流され、機密情報でもお構いなしに喋り始める。小人の虚栄心とはげに恐ろしい。トルヤもよく知っている。


「知ってて言ってるんだよ! 制服を染めてるインクが汗で滲むよ毛穴から入りこんで、やがて脳が侵されるんだ。お前も操り人形にされるぞ!」

「へえ、興味深いね。ひょっとして君もすでに操り人形に?」


 トルヤはこの苺鼻を、まだ名乗っていないがストローと呼ぶことにした。ストローは貴重な威張るチャンスを潰されかけて、自分ではそう思い込んで、呼吸を荒げている。最初から無い立場がさらに遠のく。掌で踊るストローの協力もあり、四年生と五年生はトルヤに一目置く。持たざる者は得るチャンスを棒に振るから持たざる者なのだ。


 これ以上の情報は煽っても期待を見せても得られなそうだ。ストローが万策尽きて手を振り上げたところで上級生が介入し、トルヤは顎関節症を患わずに済んだ。この一件は近くにいたグループにも届いている。ストローが大声で捲し立てて、目線の先にトルヤを捉えていた。ストローは停学か、見栄を張って自主退学か、どちらにしてもトルヤの前にはもう現れない。


 トルヤがこの学校に入学した本当の目的は、様々な噂話を隠れ蓑にした秘密を暴くためだ。七不思議と称した歪な作り話を再現してまで注目されにくくしている。きっと観察すれば見つかる場所に置かざるを得ない何かだ。トルヤには万が一に備えて情報をほとんど持たされていない。ただの噂話好きの少年として観察している。


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