(7)『王女の解呪』


(7)【王道ファンタジー】現世/テント/穏やかな存在 (955字を/31分で)


 自称・姫様が旅仲間に加わって最初の野営をする。宿屋では部屋を男女別にしていたが、テントではそうはいかない。荷物の重さや大きさはそのまま負担になる。支柱を何本も持つ余裕はない。それとは別に、旅仲間は信用できるもの同士で、協力するもの同士である必要もある。納得してほしい。


 と、長々と説明するつもりでいたが、自称姫様は二つ返事でテントに入った。気になるなら間に荷物と目隠しでもと考えていたのは無駄になり、中ではすでに横になっている。仰向けで手に頭を乗せ脚を組む。今どき見ない、粗野な姿勢だ。


「こういうの、やってみたかったんだ。本の中でも一際すてきでね」


 顔に出ていたのか、先に話をされる。自称する内容もあながち嘘ではないかもしれない。偽物は自分を偽物と知っているが、本物は自分が本物だと知らない。繕いの様子がないところが本物らしい。


 夜になり、焚き火の見張りの交代の間際に、剣士と魔術師の秘密の会議をしている。他のメンバーは全員がテントの中にいて、焚き火を挟んでテント側を眺める。盗み聞きの心配はない。


「あれ、どう思う? 本物だと思うか」

「怪しいよね。だけどそれ自体が彼女に信憑性を持たせてる。本物っぽさを出してないところがさ」

「そう思わせて、と考えようにも言葉選びは穏やかだよなあ」

「目の付け所もね。よほどでなければ信用していいと思う。斥候も何も言わないし」


 意見がおおかた一致した今、話の種がなくなった。パチパチと焚き火の音を聞きながら揺れる炎を眺めている。植物が燃える匂いを動物たちは嫌う。野営の途中で襲われてはたまらないので、朝まで火は絶やせない。


 交代までの時間は薪を使った数で数えている。いまは最後の一本だ。ここが燃え尽きたら魔術師が眠る番で、入れ替わりで商人が起きてくる。それまでに剣士は、魔術師との話をもう少しだけしておきたい。当番制で、次に二人きりで話せるのはだいぶ先になる。


「魔術師。ひとついいか」

「勿体つけるね」

「親父さんの件、あれからどうなった」

「どうもならないよ。あれはもう現世の存在じゃない。私たちにできることは何もない」


 吹っ切れた様子で吐き捨てるが、剣士はその表情が寂しげに見えた。「そうか」と呟き、黙って隣に寄り添う。最後まで。

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