(4)『魔導騎士団の新人』


(4)【邪道ファンタジー】雪/洗濯機/最高の関係 (1548字を/37分で)


 村に文明がやってきた。中央にある魔導工場で生産される魔力を管を通して各地に送り、受け取った魔力で魔道具を動かす。田舎では手元での自給自足が中心で、大きな力を出すにはどうしても持ち運びができないほどに大型化してしまう。送魔管で遠くまで送る損失を加味しても、中央の大型魔力炉なら効率で補える。老人と特殊部隊が昔ながらの小型道具を使う他は、どんどんと設置式に置き換わっていった。


 ソプラノは家族全員分の洗濯を担当している。十人の兄弟姉妹のうち四番目であり、頼る機会より頼られる方が多かった。洗濯が大変だからと断っていたところにやってきた洗濯機のおかげで、活発な会話が増えて、発見そして改善を増やしていける。ソプラノにとっても、周囲の全てにとっても、喜ばしいことだ。


 寒冷な地なので、洗濯の後は少し並べるだけで染みた水が氷になり、叩いてふるい落とす。その間に次の洗濯を済ませておける。最適に噛み合った時間の関係にソプラノは悦びを感じる。多くの時間を氷叩きに使える都合で、せっかくなので剣を振るうイメージで動かした。先端から遠い部分を持って振ると勢いがつけやすく、逆に先端に近い部分を持つと動かしやすい。誰に教わるでもなく、自らの手で覚えていく。


 ある日、特殊部隊の連中がその様子を見て声をかけた。「お嬢さん。いい筋をしている。少しリクエストと、次の満月の日に勧誘員を連れてきてもよいだろうか。よい返事を期待している」「なぜリクエストを? 私が仰るような、才気あふれる逸材とは思いにくいけれど」「この地域だから独力で身につけたのだろう。以前と比べたら成長が早すぎる。確認するだけの価値えお見せてもらった。故に振るい方を、ひとつ見てほしい」特殊部隊は手元の剣を構えゆっくりと振った。手元に注目するように言う。右手で剣の重さを支えて、左手で動かしている。左手で持ち手の先端を引くと、右手の先が勢いよく前へ出る。剣は勢いで振るのではない。手元の動きを増幅して操るのだ。「これを試してほしい。そして次の満月の日、我らが隊長に披露するのだ。もちろん、無理にとは言わぬ。興味がある場合のみでいい。どちらであっても、我らが隊長は同行する。言葉は要らぬ。扱いで答えよ」「考えておきます。家族に相談もしながらね」特殊部隊は満足げに頷き、ソプラノに背を向けた。


 昼間の話を聞いて、弟たちと妹たちは目を輝かせた。「姉さまがあの特殊部隊で活躍するって、すごくかっこいよ」「応援するしみんあを支えられるようになる」「明日からでも洗濯を僕が受けもつから、鍛練の時間を作って」子供たちは朗らかに語るが、その裏には自己犠牲を読み取れた。まだ小さな子供たちが、重い洗濯物を運ぶだけでもひと苦労なのだ。時間をかけていたら先に寒さで倒れるかもしれない。動けるくらいに成長した者はすでに他の役目を担っていて、子供たちを手伝う余裕はない。ソプラノは悩む。特殊部隊へ出向いたら、子供たちは汚い服を着る期間が増えて、病や死に近づく。しかし、このままの日々を続けてもいずれは破綻の未来が見える。活動している者の稼ぎは支出を僅かに上回る程度で、怪我の薬を買うたびに貯蓄は減っていく。このままならきっと、末っ子が大人になれない。家計の管理もソプラノの役目だ。何を使うかいくつ使うか、自分抜きで家を続けられるか。


 悩みながらもソプラノは振り方を身につけていた、悩みとは両方の価値が同程度であるときに起こる。どちらを選んでも期待と不安がある。ならば両方を選べるように。片方に決め打ちをしてはいけない。情報を集めきるまで、あるいは答えを出すまで、選択肢を残しておく。ソプラノは洗濯物を叩く。小さな力を大きな力に変換して叩く。洗濯機と同じだ。



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