第三者―とあるファーストフード店員の会話・3―

【悲報】15分遅刻

単なる投稿遅れです。

―――――――――――


「――ってなことがあった、らしいわけよ」

「……なんつーか、カオスだな」


 バイトが終わった帰り道、私の話を聞いた彼氏――浦本誠也うらもとせいやが困ったような表情を浮かべた。理解が追いつかない、というのだろう。そんなの私も同じなのよねぇ。聞いた話だし。

 うん、自分でもちょっと話を整理してみるか。


「まず、常連の男子高校生がいました」

「あ、また最初から?」

「自分でも話の整理がしたいから。んで、男子高校生には彼女……らしき人物がいました」

「瑛子は見た事ないんだろ?」

「ない。だかららしき。んで、その彼女(仮)カッコカリは大学生らしき浮気野郎に手を出されたっぽいです」


 ここまでは椎名ちゃんから聞いた話。


「で、男子高校生が残されて、その後にその子の友達が遅れてやってきた、と。で、その子が実は――」

「男友達と思いきや女子だった、と」

「そうそう。私はてっきり男の子だと思ってた」


 いっつもジャージだったし、その、お胸がね……いや、私もそんな大きくないけどさ。別にいいさ! 誠也は好きって言ってくれるし!


「で、男子の方は実は女子の方が昔から好きで、ここでまさかの告白。女子の方も同じで両想い! 2人は結ばれて幸せなキスまで――」

「したの?」

「らしいよ」


 三田さんがそう言ってた。ちょっと見たかったなぁ。


「で、そんな面白そうな事があったというのに、私はお休みをとっていた為その場に居合わせられなかった、と!」

「いや、居なくて良かったんじゃないの? その大学生っぽい男、もしかしたら根岸かもしれない、っていうんだろ?」


 誠也が顔を顰める。彼も根岸寝取り性癖野郎の事は知っている。同じ高校だからね。その時から誠也とは交際しているのよ、私は。ウチに上がり込まれそうな話とかした時は、本気で怒ってたからなぁ。根岸に良い感情は無いだろう。私も大嫌いだけど。


「でも流石にそれはないんじゃない?」


 椎名ちゃんも言ってたけど、そこまで世間狭くないでしょ。


「いや、わかんないぞ? アイツこの辺り住んでるらしいし」

「え、マジ?」

「マジ。最近そう聞いた」


 誠也が神妙な顔をして頷く。それは知らなかった。今まで遭遇しなかったのは幸運かもしれない。でもウチの店来た事は多分ないんだよねぇ。


「あ、聞いていい?」

「何?」

「最近誠也迎えに来てくれてるのって、アイツの話が関係してる?」

「……ナンノコトカナ?」


 朗報。私の彼氏、私の事好き過ぎる。今だってただの帰り道なのに、手繋いでるし。


「まぁ安心しなさいな、私は誠也一筋なのだよ?」

「靡かないにしても、変にちょっかい出してきたら嫌だろ? アイツだって男だから、何してくるかわかんないし」

「む、確かにそれを言われると……あ、そういや今『一筋』で思い出したけど」

「何?」

「あの男子って何時も一緒にいる友達に告白したんだよね。でも彼女もいた、と。ただ三田さんの話だと、男子は友達がずっと好きだったらしいけど、ならなんで彼女作ったんだろうなー、と」


 その友達が諦めきれなかったとか? じゃあそもそも彼女と付き合わなけりゃいいのに。何だろう、男子の方も碌な奴じゃない、って印象が。


「んー……そもそも、さ」


 誠也が何か考えるような顔をして、それから口を開いた。


「本当にその子、彼女だったのか?」

「え? そう見えたらしいよ。私見てないから知らないけど」


 何か常に隣同士の席だった、って椎名ちゃん言ってたし。そう言うと、また誠也は考える仕草を見せる。


「んー……何か理由があった、とか?」

「隣同士になる理由? 知らない人なのに?」

「わからないけどさ……例えば――恋人同士のように見せたかった、とか?」

「……なんでそんな事する必要あるのさ」

「いや、わからないけど」


 困った様に誠也が言う。何でそんな事する必要があるのか。

 まぁ、所詮私は第三者。彼らが何でそんな事になったか知らないし、知る事も無い。知る方法も無い。

 そんな話をしていると、我が家に到着する。


「さて、とうちゃーく! 御苦労様でした!」

「お安い御用ですよっと」

「ちょっと上がってく?」

「いや、家の人いるかもしれないだろ?」

「ほほう、居なかったら上がってると……警戒すべきは寝取野郎じゃなくって、送り狼かな?」


 からかう様に言うが、誠也の方は「はいはい」と呆れた様な物言いだった。


「ま、じゃまた後で電話しよーねー」


 そう言って手を振り、誠也の背中を見送ってから私は家の鍵を開ける。


「ただいまー」

「あ、お帰りお姉ちゃん」


 玄関を開けて出迎えてくれたのは、愛しの妹である。丁度お風呂上りだったのか、首にタオルを巻いて薄着姿。顔が少し赤く、茶色い短髪が濡れている。


「こーら、家の中でもそんな格好でうろうろしちゃ駄目でしょ?」

「えー、だって熱いしー」


 全く、私だからいい物を。これで誠也を連れて来ていたら鉢合わせていた。


「駄目駄目。そんな格好、男が見たらあっという間にケダモノと化すわよ?」

「何言ってんのお姉ちゃんったら」

「いーや、全然わかってない! 自分がどれだけ魅力的かわかってないでしょ? 胸だって大きいし、何より可愛いんだからね――


















美香ちゃんは」


 私がそう言うと、妹――美香ちゃんは「はいはい」と呆れたような返事をした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る