関係者―●●れた女の顛末―

 ――で、大慌てで店に行ったはいいけど、相変わらずアイツは呆けた感じで、こっちも何言っていいかわからないし、様子を探っていたらこう言われた。


「あ、そうだ。ちょっとこんな感じで夕飯食べるの、できなくなりそうだから。難しい様だったら付き合わなくても大丈夫だから」


 頭を殴られたような強い衝撃を受けた。それで私は思わずこう聞いていた。


「あ、あのさ。それって、その、彼女が理由?」

「え!?」


 はっきりとは言わないが、驚いた様子の悟。

 やっぱり彼女が居たのか。こみ上げてきそうな涙を堪える様に、無理に笑って私は明るく振る舞おうとこう言った。


「み、水臭いなぁ! 彼女出来たなら言えよ!」


 私は笑う事が出来た筈だ。後はもうこの勢いのまま、もう会う事は止めようという話をしていく。彼女がいるのに、ただの幼馴染の私といつまでもつるんでいたら、喧嘩や別れたりとかの原因になりかねない。

 これでいい。悟は違う人を選んだ。だから私が取るべきなのは距離を置く事。これでいいんだ、と自分に言い聞かせた。


 ――だっていうのに。


「いやさ、いつの間にか俺に彼女が出来てて、その彼女が……なんていうの? 寝取られた? そんな感じにされてたんだよね」


 ちょっと何言ってるかわかんない。何その状況。

 からかっているのかとも思ったが、嘘を吐いている様子も無い。

 けど詳しい話を聞いても、何を言っているのかという内容だった。何を勘違いされたのかどうかわからないが、とりあえずわかった事は、悟に彼女が居ないという事だ。


「……はぁ、良かったぁ」


 心底ほっとした。変なのに絡まれた悟は災難だけど、こっちとしては気が気じゃなかったんだから。

 さっきの『こんな感じで夕飯食べられない』というのも『こんな騒ぎあって恥ずかしくてこの店使えない』っていう意味だと。そういうのはもっとちゃんと言えっての。

 安心したからか、悟から色々と聞き出す。その話の中で相手の女を知っていた、という所に引っかかったが、単にこの店で隣り合う事が多いだけで本当に顔を知っているだけ。名前どころか碌に話した事も無いとか。

 へぇー、碌に話した事も無いのに、顔とか覚えてるのかぁー。へぇー?

 何かちょっとムカついた。その女に対して、実は満更でもないんじゃないかと。

 だからちょっと聞いてやった。その女がタイプなのか、と。まぁからかい半分だけど、後は腹いせ。こっちがどれだけ不安にさせられたと思ってんだ。これくらいやってもいいだろ。

 そういやこの手の話はしたことなかった、とふと思う。悟の好みとか、全然知らなかった。よし、その内コイツの家乗り込んで、ベッドの下でも覗いてやろうか。

 そんな事を考えていたから、油断した。


「んなわけないでしょ……そもそも、俺が好きなのは和希なんだから」


「――ふぇ?」


 え、コイツ今何て言った? 悟が、私の事、好き?

 理解が追いつかないでいる間に、悟は何か決意した様に畳み掛けてきた。多分、向こうもつい言っちゃったんだろう。それで自棄を起こした感じだったけど――告られた。

 突然の出来事で信じられないやら、でも嬉しいやらで、つい泣いてしまった。まぁ、私の胸が無い貧乳に「そこがいい」とか言ったのは台無しだったが。けど、変に巨乳好きとかじゃなくて安心したのも確か。何でかわからないけど、大きくならないんだよ、私の胸。ママは大きいのに……何故……

 で、そんな事で安心していたら今度はアイツときたら、告白の返事をしろとか! 滅茶苦茶恥ずかしかったけどしたさ! 超噛んだよ!

 それだけでも恥ずかしいのに、アイツ! いきなりき、キスまで……そ、そういうのはもっとタイミングってのがあるだろうが! 店で騒いだ私も悪かったけど、悟が悪い! もうあの店使えない! 帰り道じゃ手繋いでくるし! 嫌じゃないけど!

 しかも『キスは初めてじゃない』とかいうからやっぱり彼女いたのかと思ったら幼稚園の話だよ! そこはノーカンだろぉ! 深く考えないでやっちゃったんだから!

 挙句の果てにはミーティングサボるくらいまで大慌てしたことまで白状させられた。それでアイツときたら「いや、俺の彼女がそこまで俺を想ってくれていたのかと思うと、思わず嬉しくなって……」とか……ああもう! ホントそういうとこ! そういうとこだぞお前!

 で、私が「浮気したら泣く」って言ったら「逆にされたら死ぬかも」って。

 ここまで散々やられたので、やり返す意味で今度はこっちからしてやった――その、キスを……頬に……ああそうですよ! ヘタレですよ!

 するとどうだ? ヘタレ具合に呆れたのかと思いきや、悟ときたら「俺の彼女が本当可愛くて辛い」とかどれだけ私の事好きなんだよコイツ!


 ――色々あったが、あの女子には感謝した方が良いんだろう。

 そうでもなければ、こんな風に関係が進展する事は無かったかもしれないし、進展したとしてもいつになったのか。若しくはそれこそ悪い結果になっていたのかもしれない。

 何時かまた出くわしたら御礼とか言った方が良いのだろうか。こんな風に背中を押されたから、一歩進む事が出来たのだから。

 ――そういえば、あの女子が誰なのか、さっぱりわからなかった。同級生、だとは思うけど。後あの店で私たちを見かけたとか言ってたけど、あんな女子いたっけ? 同じ学校だし結構目立つ容姿派手な見た目だから、見かけたら多少なりとも覚えている筈だけど。そういや、私たちの名前も知っていたけど、何でだ?


 いくつか生じた疑問だったけど、それはすぐに頭から忘れ去られてしまった。

 ――悟が、親が居ないのを良い事に、この後本当に私を家に連れ込んだから。そこで何かこう、結ばれたというか……滅茶苦茶甘やかされた事だけは覚えている。恥ずかしすぎて死ぬかと思った…‥

 ――コイツ、どれだけ私の事好きなんだよ……!


――――――――――――

何かこのパートだけ作風が違う感じに。

後残り少ないので今週はこっちの更新に集中するかと。

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