関係者―●●れた女の焦燥―

「あれ、一ノ瀬さん? おーい?」


 衝撃を受けた私の頭は真っ白になっていた。

 

 ――悟が、女の子と、一緒にいる? 私以外の女と?


 ぐるぐると、頭の中で回り続けていたので女子が話しかけているのに気付かなかった。


「一ノ瀬さん!?」

「――はっ!?」


 大きな声で、やっと意識が戻った。「大丈夫?」と心配そうな顔をされたが、私には頷く事くらいしかできなかった。


「……あのね、私が見た感じ、牧田君がその子と付き合ってるように見えたの。カウンター席で隣同士並んでて。でも一ノ瀬さんとも仲良いでしょ? 一緒にいるとこ、良く見かけたし……だからひょっとして牧田君が浮気してるんじゃないか、って思って一ノ瀬さんに声かけたんだけど……」

「つ、付き合ってるように見えた?」

「うん、何か良い雰囲気っていうか、初々しいっていうか?」


 その女子の一言一言が、私の頭をガンガン殴るような衝撃を与える。

 付き合っているように見える。良い雰囲気だった。そんな風に見える女と、悟が一緒にいた。自分が知らない間に。


「い、一ノ瀬さん!?」


 驚いたように女子が声を上げる。私が「へ?」と呆けた声を出すと、慌てた様子の女子が目に入った。何となく、視界がぼやけていたのが不思議だった。

 ――知らない内に、私は泣いていた。ぼやけていたのは、涙のせいだった。

 何で私は泣いているのか――そんなの、わかっている。


 ――そういう存在彼女を悟に秘密にされていたという事。

 ――悟に彼女が出来ていたという事。

 ――もう悟と一緒に居られないんじゃないか、という事。


 どれも、考えるだけで悲しくなり、気付かない内に涙を流していた。


「――ちゃんと話した方が良いよ?」


 ただ涙を流す私に、その女子は心配そうに言った。


「私偶々見かけてそう思っただけだけど、実際どうかって聞いたわけじゃないから、本当のところ聞いた方が良いよ」

「で、でも……」


 怖かった。悟に聞いてみて、実際に彼女が居たら。私はどうしたらいいのか。完全なお邪魔になってしまうのではないか。そうしたら、もう何時もの様に寄り道したりとかできなくなってしまう。そう考えると、怖くて悟から聞く事なんて考えられなかった。


「それでも、ちゃんと話さないと。私の勘違いかもしれないし、もし勘違いだったらとしたら、ちゃんと一ノ瀬さんの気持ち伝えないと」

「私の、気持ち?」

「そうそう」


 女子が笑顔を見せる。同性なのに、思わずドキっとするような笑顔だった。


「私ね、一ノ瀬さんと牧田君が一緒にいるのも見かけてるけどさ、楽しそうなんだよね2人とも。それこそ最初は付き合ってると思ってたんだから」

「……私と悟は――」


 ただの幼馴染。別に付き合っているわけでは無い。


「でも牧田君も、一ノ瀬さんと一緒にいると楽しそうだよ? ――変に混乱させちゃってごめんね? でも、一ノ瀬さんと牧田君、お似合いだと思ったから。2人とも幸せになって欲しいって思うくらい。だからさ、後悔しない様にしてね?」


 そう言うと、女子は最後にもう一度「ごめんね」と言って去っていった。

 ――残された私は、頭の中がまだグチャグチャだった。


「――部活」


 そんな中、最初に浮かんだのが部活だった。とりあえず、部活に行かないと。


 ――部活中、ずっと悟の事が頭から離れなかった。お陰で散々だった。みんなから「体調でも悪い?」と心配されて。

 最初の内は「大丈夫」と何ともないように振舞っていたけど、ダメだった。


「――今日帰った方が良いんじゃない? ミーティング、不参加でも大丈夫だよ?」


 その言葉を受けて、私は切り上げる事に決めた。

 しかし帰宅はしない。今日は元々会う予定だった。


 ――悟に、ちゃんと聞いてみよう。

 それでどんな答えでも、受け入れる様にしよう。


 大急ぎで着替えた私は、そう思いながらファーストフード店へと向かった。

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