当事者―●●れた男の疑問―
「もうあの店行けない」
帰り道、和希が顔を両手で覆いながら呟く。耳が真っ赤になっているが、覆っている顔も同じ事になっているだろう。
「ゴメンて」
「やだ、許さない」
ずっとこんな感じだ。流石に抑えきれなかったのは悪いと思っている。でも反省はしていない。
「うぅ……初めてはもっと別の形でしたかった……」
「え」
和希の呟きに、思わず声を上げた。
「え、ってなんだよえ、って。おま、まさか……他の女と……!?」
「いや、もうした事あるじゃん。幼稚園くらいの頃」
「あれはノーカンだろぉ!」
和希が声を上げるが、その後何処かほっとしたような表情を浮かべていた。が、すぐに顔を真っ赤にして俺から顔を逸らしたかと思うと、睨むようにして見てくる。
「……なんかその余裕そうな態度がむかつく。私だけじゃん、バタバタしてんの」
「まぁ、色々あり過ぎて逆に冷静になれたっていうかね」
今日一日だけで本当色々ありすぎた。こんな事、誰かに話しても信じてもらえる気がしない。正直俺だって信じられない。
「ひゃあっ!?」
「あ、ゴメン」
信じられなかったので、つい和希の手を握ってしまった。柔らかい感触と少し熱い位の体温の温かさで、やっと実感を得られたような気がした。後聞いた事ない悲鳴が可愛かったです。
「おま、だーかーらー! そういう所だぞお前ぇ!」
「いや、ついうっかりと。ゴメンゴメン」
「ああもう! にぎにぎするな! 指絡めるなぁ!」
そうは言いつつも、手を離そうとする様子は無い。なので継続するが、一応聞いておく。
「嫌ならやめるけど?」
「……嫌じゃない」
継続決定。所謂恋人繋ぎという形で握る。隣で和希は「あーもー……」とゆで上がっている。
そんな状況に浸っていると、ふと疑問が頭に過ったので、それを和希にぶつけてみる。
「そういや和希、いつもより今日来るの早かったよね?」
和希の部は活動に力を入れている部類で、終わった後もミーティングやら何やらある。その為下校も、店に来るのも遅い時間だ。
疑問をぶつけると「あー……」と少し考える素振りを見せてから、和希が言う。
「まぁ、ね。ミーティングすっぽかしたから」
「え、大丈夫なの?」
「そこは大丈夫。一応許可は取ったから」
「でも何で? 普段そういうことしないじゃん」
和希は部活動に関して、真面目に取り組んでいる。許可は取ってあるとはいえ、
「――だよ」
「え?」
「いや、だからお前が、その……あぁもう! お前のせいだよ!」
「え? 俺? 何で?」
「だーかーらー! お前が! あの店で! 他の女と一緒にいるっていう話を! 聞いたんだよ!」
「え? 誰に?」
「知らねぇよ! とにかくお前をあの店で見たんだって! そんで付き合ってる感じ出てたって言うから! ンな話聞かされて気が気じゃなかったんだよ! 部活どころじゃなくって!」
顔を真っ赤にして吼える和希に、俺は空いた手で思わず顔を覆った。
「何だよそれ」
「いや、俺の彼女がそこまで俺を想ってくれていたのかと思うと、思わず嬉しくなって……」
「かっカノ――ッ?」
そこ、いい加減慣れようよ。
だが和希は今度は呆れたように溜息を吐き、俺を見て言った。
「……ほんっとうにそんな女、居ないんだな?」
「居ないよ? 和希だけだよ俺は」
「信じるからな」
「信じていいよ」
「……浮気するなよ?」
「しないよ」
「絶対だぞ? したら泣くからな?」
「する気もないし。逆にされたら死ぬかもしれないや、俺」
少し想像してみた。あの大学生風の男の隣にいるのが、もし和希だったら、と。
――ヤバい。想像しただけで死にたくなる。後あの男ぶっ殺す、って気になった。
「するわけないだろ……うし」
呆れて溜息を吐いた和希だったが、何か決意したように頷くと俺の頬に空いた手を伸ばす。そっと手を添えると、ゆっくりと顔を近づけ――
「……こ、これで信用したかよ?」
柔らかい感触が、頬にあたった。
「って、なんで顔押さえてんだよまた!? わ、悪かったな! いざって時にほっぺにしかできないヘタレで!」
「俺の彼女が本当可愛くて辛い」
「そっちかよ!? どんだけ私の事好きなんだよお前!?」
幸福感に包まれながら――俺の頭には離れない疑問があった。
結局、あの男達は何だったのか。単なる勘違いだったのか。
それにしては――そもそもだ。あの男の隣にいた女の子は、何故毎回俺の隣に座っていたのか。
考えてみればおかしい。別に満席でもなんでもないのに、毎回隣になるなんて狙っていないとあり得ない話だ。
今思い返すと、いつもあの女の子は俺の隣に座っていた。だから、顔は覚えていたのだ。
俺がカウンターでも毎回同じ席に座っているなら、向こうも何かこだわりがあって、というのもあるかもしれない。だが俺は外が見える場所を選んでいたが、別に同じ席ばかり狙っていたわけでは無い。となると、向こうが狙って俺の隣にいたという事だ。
何でそんな事をしたのか。目的はわからない。
――まぁ、でももうどうでもいい。
何かに巻き込まれたのか、それとも利用されたのか、本当に勘違いだったのか。
もう、どうでもいい。
「……なんだよ、さっきから黙って」
「いや、どうやって今日和希をうちに連れ込もうかと考えてた」
「お前はぁ! そういう所だぞ本当!」
あの男には少しばかり、感謝している。
あんな風に言われたから、こうなる事が出来たのだから。
――――――――――
遅刻したお。
予約投稿忘れてたお。
毎日更新途切れる所だった。いかん危ない危ない危ない……
キリのいいところまでやったので、明日からは他の作品の方になります。
次回の更新は来週になるかと。後今月中に終わるかな、コレ……
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